ルノーの日産「西川社長」の見方が変わった理由 スナール会長は日産との関係を改善したい

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しかし、時間が経つにつれ、ルノー社内で西川社長に対する評価が変わってきている。一部の取締役会は依然、ゴーン氏は「はめられた」と考えているようだが、同氏の私生活が明らかになるにつれ、西川社長を賞賛する声が高まってきている。誰も声を大にして言わないが、西川社長は日産およびルノーの誰もが手をつけなかった「汚れ仕事」をやった、と見られているのだ。

日産がルノーから得たもののほうが大きい

今後、日産とルノーは関係を修復し、アライアンスを維持することはできるだろうか。そのカギを握るのは、西川社長だとの見方が大半だ。西川社長は、ルノーとの「より対等な関係」を望んでおり、ルノーによる臨時株主総会開催の要求も拒否するなどしている。日産にとって何より重要なのは独立性を維持することなのである。

が、外国人投資家からは、西川社長のこうした態度に懸念の声も上がっている。「西川社長の態度は本当に信じられない。ほかの企業と同様、日産も大株主であるルノーの要請には応じる必要がある。西川社長の一連の言動は、日本に投資する外国人に恐怖感しか与えない」(香港に拠点を置く投資銀行CLSAの自動車アナリスト、クリス・リヒター氏)。

目下、日本ではいかにルノーが日産から利益を得ているかを伝える報道がほとんどだ。だが、西川社長はこれまで日産がルノーから得てきたもののほうが、日産がルノーに与えたものよりも大きいということを忘れるべきではない。

1999年、ルノーが日産と提携した際に、ルノーのチームとして関わったある人物は言う。「日産を守るために、ルノーは中国市場にはかなり遅れて参入したし、(撤退した)アメリカ市場に再参入することもなかった。また、採算性の高いSUVや高級車も躊躇しながら投入している。ルノーは日産にコストカットの方法だけでなく、魅力的な自動車の開発や企業経営のノウハウも教えてきた」。

「だが、日産もルノーも今や技術開発では競合他社の後塵を拝している。特に電気自動車(EV)ではかなり後れをとっている。日産はこれまで『リーフ』の開発に50億ドル以上費やしてきたが、国の補助金があったとしても売れていない」

2月16日に日本を去ったスナール会長。次の礼拝では日産とルノーの関係改善、そして、同じくクリスチャンであるゴーン氏のために祈りを捧げるのかもしれない。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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