「阿波踊り」の再生策がまるで決め手を欠く理由 組織を複雑にしてもろくな結果は出ない

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阿波おどりをめぐる混乱はまだまだ続きそうだ(写真:しゅう / PIXTA)

より根深い問題もある。阿波おどりの混乱という「地域内の泥仕合」の背景には、衰退する徳島市の苦悩があるのだ。

徳島にもかつて繁栄を極めていた時代がある。江戸後期には徳島藩の藩政改革が大成功し、日本全国を相手に稼ぎに稼いだ。その中核産業が「阿波藍」だった。本藍ともいわれた阿波藍は全国ブランドとなり、大きな富を徳島にもたらした。花柳界も栄え、そこから発展したのが、伝統行事だった阿波おどりだ。

だが化学染料の普及によって、藍染めは衰退した。

「地元外資本」参入で壊滅的な打撃

近年でいえば本州四国連絡橋の影響も大きい。昨年はくしくも、徳島と関西を接続することになった明石海峡大橋が開通して20年の節目の年だった。もともと徳島経済は海によって関西経済と一定の隔たりができていた。ところが橋の開通により、神戸や大阪の商業と直接競合することになった。

さらに物流網のボトルネックが解消されたことで、徳島内に「地元外資本」による大型モールやコンビニが続々と開業。競争の緩い内需経済に慣れていた徳島市中心部商業は壊滅的な打撃を受けた。かつての藍染めのように地域外で稼げるような産業力も細っている。

本来、伝統行事は地域の稼ぎによって発展し、支えられるもの。ところが産業が衰退し、誰もが自分のお金を出すのではなく、行政からの補助金を当たり前のように期待するようになってしまった。

こうした局面でやるべきは、“賞味期限”が迫った利権をめぐる内輪もめではない。新たな時代に即した稼ぐ産業をつくること。それが地方創生において最も重要なことだ。

『週刊東洋経済』2月23日号(2月18日発売)の特集は「地方反撃」です。
木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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