米中貿易戦争は根が深く、短期で終わらない 元・財務省財務官の渡辺博史氏に聞いた

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――FRBの次の一手は?

インフレ率はあまり上昇しないし、経済成長率も今後鈍化する中でFRBが金融政策の正常化に突っ走るかどうかは微妙だ。パウエル議長は、トランプ氏が要求するから利上げをしないという形だけは避けたいだろう。ただ2019年の利上げは、あっても年前半に1回ではないか。インフレ動向と足元好調な雇用情勢を見ながらの判断となろう。

「FRBの利上げは、あっても年前半に1回」とみる(撮影:尾形文繁)

――米中貿易戦争の行方については?

当面は、関税引き上げの対象品目を減らすなどで手を打つことになるのではないか。関税引き上げが輸入物価上昇となってアメリカの消費者にダメージが及べば、トランプ政権にも逆風となる。アメリカの対中貿易赤字が減り、中国の対米貿易黒字が減れば、アメリカの貿易量全体が減る。そうなるとアメリカ企業の利益全体が減少し、従業員に対する給料の総額も減る。そのため、全面的な関税引き上げまでは踏み切れないだろう。ただし、米中対立はITの覇権争いや知的所有権の侵害など根が深く、短期で終わるということではない。

中国経済はクラッシュすることはない

――中国の景況感が悪化する中、中国政府も対策を打っています。

クラッシュすることはないが、アメリカに比べれば景気減速のペースが速くなるだろう。中国は2010年ごろまでは実質で2ケタ成長をしていたが、徐々に減速し、2018年は6.6%(速報値)となった。2019年は自然体でも成長率は6%程度へ減速し、本格的な貿易戦争になればさらに0.5~1.0%落ちるという大変な状況になる。成長率が7%ぐらいあれば、すべての国民の生活水準が上がるが、6%を割ってくると下の1~2割の国民の生活水準は悪くなる。5%近い成長率は政治的にかなり厳しい。

中国政府は金融緩和や財政刺激策を打っているが、本当はやりたくない。本来なら今年は不良債権処理を進める予定で、景気刺激策をやれば処理が遅れ、不良債権がさらに増える可能性もある。2020~2020年以降に調整期が長く続くことになりかねない。

――1990年代の日本と比べて中国の不良債権問題は深刻なのですか。

総貸付残高に占める不良債権の比率は1997~1998年当時の日本とあまり変わらない。当時の邦銀のほうが今の中国の銀行よりも財務上健全だったはずなので、かなり厳しい状況ではないか。また、日本は海外に「奉加帳」を回す(資金支援を求める)のではなく、国内で処理をした。その点、中国は国際的な支援が必要になるケースも想定される。万が一、中国が保有している約3兆㌦のアメリカ国債を売りに出すようなことになれば、アメリカにとっても大変な事態となる。危機の初期時の国際協調が遅れると傷が大きくなりかねない。

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