日本の生産性向上を妨げている原因は何か このままでは再び停滞の方向に向かう懸念

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日本が経験した長期にわたるデフレ停滞期は(現時点でもデフレ克服には至っていないが)、総供給に比べて総需要が少ない状況である。デフレ期にも多くの企業が生産性を高めて魅力的な商品・サービスを作りだしたが、「総需要の天井」によってGDPが抑制されたままでは、技術革新の成果がGDPや労働生産性の高まりとして観測されづらい。

デフレ期の約20年間、日本で観測された労働生産性の停滞は、総需要の伸びが低かったことでかなりの部分が説明できる可能性がある。

他の先進国との生産性比較には一定の考慮が必要

そして、経済全体の総需要の変動やパフォーマンスは、金融財政政策によって左右される部分が多い。アベノミクス以前のデフレ停滞期は、金融財政政策が緊縮的に作用していたと筆者は認識している。つまり、日本の生産性の低い伸びのかなりの部分が、多くの方が感じる企業や職場の問題(供給側の要因)よりも、デフレ克服や不完全雇用への対処が十分ではなかったマクロ安定化政策の機能不全によってもたらされた可能性があるということである。

長期のデフレと総需要の停滞という特異な経済環境だった日本と、他の先進国の生産性の数字を比較する際には、この点を考慮することが必要だろう。だが、実際の局面ではこの点を踏まえず、多くの人の直感に合う、組織や会社の問題、グローバル競争に直面した製造業の衰退、などを例にあげながら、供給側の構造問題だけにクローズアップされやすい。そうした議論の多くは、経済政策の機能不全による総需要停滞が、労働生産性の停滞を招いてきた側面を軽視しているように思われる。

ところで2013年以降、日本銀行による金融緩和政策が強化されてから、2014年の消費増税によって一時GDPはゼロ成長まで落ち込んだ時期があったが、日本経済のGDP成長率は2017年までの5年間で平均+1.2%成長してきた。同期間に就業者数も年平均+0.8%伸びていた。この結果、労働生産性(実質GDP/就業者数)は2013年以降の5年間で平均+0.4%の伸びにとどまっている。

2019年は、統一地方選挙や参議院選挙を控え、これから論戦が繰り広げられるとみられる。野党が今後もアベノミクス批判を掲げ選挙戦を戦うとすれば、「労働生産性が伸びていない」ことが政治的に利用されるかもしれない。生産性の低さは日本経済の正常化を意味せず一時的に経済成長が伸びたにすぎない、という理屈にもなるかもしれない。だが、こうした議論は本当に妥当だろうか。

GDPと遜色ないペースで就業者数が増えたことは、多くの労働者に恩恵が及んだことを意味する。長期間のデフレ停滞期の不完全雇用期があまりに長かったため、過去5年で労働市場改善が続き、失業者が減っただけではなく、就業機会がなかった女性や高齢者などの活用も進んだことが、就業者数の拡大を後押しした。

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