元中国大使が大胆予測!米中貿易戦争の行方 トランプ強硬策が中国の技術力を後押しする

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日本社会を覆っていた「反中・嫌中」の空気の製造物責任は、間違いなくメディアにその一端がある。そして反中・嫌中の空気の背景には、中国および世界を自分から知ろうとしない日本人の内向きな姿勢が見える。

反中・嫌中は現場と現実から目を背ける危険な行為

2018年12月に出版した私の新著『習近平の大問題』でこう書いた。

空気が形成されるときは、いつの時代でも特にだれかが意図して空気を創造するのではなく、相乗効果がエスカレートした結果であることが多い。戦前の対米戦に至ったケースも、今日のネットと報道の相乗効果に似たプロセスがあった。
戦前、対米戦を主張したのは軍部である。軍部の予算拡大や政治的なポジションを高めるために、アメリカを仮想敵国としたのだ。
一般の人々は、アメリカがどういう国で、どの程度の経済力、軍事力を持っているかも知らない。<中略>
一方、軍部は本気でアメリカと戦争をするつもりではなく、軍部の予算拡大や政治的なポジションを高めるために、アメリカを仮想敵国として対米戦を論じていたのだが、世論の高まりに煽られ、さらに強硬に対米戦を主張せざるを得なくなってしまった。
事態は核分裂反応のように拡大し、臨界点である開戦へと向かっていったのだ。
いつの時代も空気は一般メディアによって誘導され、国民意識のエスカレートによって形成される。戦前のケースでは、軍部、政府、新聞、国民に程度の差こそあれ、それぞれ責任がある。現代は、ここにネットが加わった。
現代の反中の空気は、開戦前の日本の空気と構造が似ている。だれかがはっきりと疑問を呈し、核分裂反応の制御棒とならなければいけないときだ。

今も昔も、日本人の現地と現場を知ろうとしない「海外音痴」ぶりと、空気に支配されやすい国民性は深刻な問題だ。「空気」に流された戦前の指導者たちは、最終的に「いまさらやめられない」と無責任な追認を続けた。

2018年秋、アメリカと中国が相互の輸出品に対して報復的に関税をかけ合う「米中貿易戦争」が起きた。事態が拡大すればアメリカ、中国だけでなく世界経済にも深刻な悪影響を及ぼすと世界中が注目する一方で、アメリカの一連の関税強化策はトランプ大統領の中間選挙をにらんだ支持率アップがねらいであり、中間選挙が終われば収まるという観測もあった。

果たしてアメリカ中間選挙が終わると米中貿易戦争は、急速に沈静化し休戦状態となり、舞台は通商交渉に移った。通商交渉は「90日交渉」とも呼ばれ、90日以内に合意に達しなければアメリカは再び関税の強化に踏み切ると宣言している。

アメリカには、中国がサイバーアタックなどによって、不当にアメリカの知的財産権を侵害している、技術を盗んでいるという疑いが根強くある。「90日交渉」は、中国の技術覇権・軍事覇権を抑え込むことが真のねらいであろう。

トランプは習近平の「製造2025」に脅威を覚えているのかもしれない。「製造2025」とは、2025年までに中国の製造業の経営管理、人材、品質、技術開発等のステージを一定レベルまで上げるという習近平の戦略である。中国は、すでに一部ハイテク産業では世界のトップレベルにある。

私の新著の中でもその一端を紹介した。

上海から帰って来た人が一様に口にするのが電子決済の広がりぶりだ。上海では、ほとんどの人がモバイル(スマホ)で代金を支払う。現金が流通していないわけではないが、行列のできているレジで現金を出そうとすれば、みんなから怪訝な顔をされかねない。
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