孤独死の後に残った現場の知られざる後始末 滅多に表へ出ない「特殊清掃」の裏側を見た

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倒れていた場所はじんわりと湿っていた。死後体から出た脂が広がっているのだという。体から出た腐敗液は、玄関に流れて赤黒い染みを作っていた。

作業員は感染症の防止のため全身に防護服を着込んで作業する。夏場にはかなり過酷な作業となる。

現場はアパートの1階で、床はフローリングではなくクッションフロア(ビニール製の床材)だった。比較的清掃がしやすい環境だという。

まずは死体があった周りの道具やゴミを廃棄してしまう。周りに体液を飛散させないよう、慎重に作業を進める。

片付け終わったら、クッションフロアにカッターナイフで切れ込みを入れて汚れている部分を一気にはがしてしまう。床材は二重に貼られていて、はがすのに難儀をしたが、一階であるためはがしてしまうと、コンクリートがむき出しになる。

「フローリングだったら大変やね。腐敗液が板に染み込んでしまうから。染み込んでいた部分を切り取るのは、その日のうちにはできない。だからしっかり拭き取った後に、臭いを封じ込めるためのコーティング剤を塗る」

床の処理が終わった後、壁紙も汚れている部分を削り取った。玄関の汚れている部分もしっかりと洗い流す。風呂場には少量の吐血の跡と、ハエのウジがいたので、それもきれいに清掃した。

発生源がなくなってしまえば、臭いは自然に消える

この時点で、ほとんど臭気はなくなっていた。発生源がなくなってしまえば、臭いは自然に消えるのだ。逆に言えば異臭がある場合、発生源が残っている可能性が高い。もしあなたが住んでいる部屋で臭いがするとしたら、臭いの元になるものがあるのだ。取り除かなければ、臭いは消えない。

清掃のあとは、部屋に除菌剤消臭剤を噴霧。換気扇など外に通じる穴をビニールで塞ぎ、最後にオゾン脱臭機をかけて作業は終了した。

「とりあえず臭いを止める一時処理はここまで。もし依頼があれば、続きの清掃もする」

佐々木社長は言った。

事務所に戻って、改めて話を聞いた。

「現場を見てもらってわかったと思うけど、特殊清掃というのは緊急を要するんや。そこがそのほかの清掃とはまったく違うポイントなんよ。ここを依頼主にもわかってほしい」(佐々木社長)

死体があった現場の多くは周りの住人からの通報で発見されている。周りの住人は部屋から漏れた腐敗臭で異変に気がつくことが多い。つまり発見時、すでに周りの住人に迷惑をかけている状態なのだ。掃除が遅れれば、ずっと迷惑をかけ続ける。

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