M-1の審査にケチをつけたがる人への違和感 準優勝でも「和牛」が圧倒的にすごいワケ

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何年も連続して『M-1』の優勝争いに絡むというのは本当に大変なことです。和牛の偉大なところは、『M-1』に挑むにあたって、毎年違う形のネタを用意してくるところです。前年と同じようなネタをやればどうしてもインパクトに欠けて評価が低くなってしまう恐れがあります。彼らは『M-1』で勝つために新しいパターンのネタをどんどん作り続けています。その苦労は想像を絶するものでしょう。

もはや彼らにとって本当のライバルは、霜降り明星でもなければジャルジャルでもなく、過去の自分たち自身です。「和牛の漫才は面白い」ということがすっかり知れ渡っている中で、そんな世間の期待を超えたネタを作って、結果を出さなくてはいけない。4年連続決勝進出、3年連続準優勝という圧倒的な実績は、そうやって自分たち自身を常に乗り越え続けた苦労の末に達成されたものです。

「漫才を楽しむこと」が本質だ

『M-1』に関して、何かと話題になるのはいいことだと思いますが、ゴシップ的な話ばかりに人々の興味が向かっているのは残念なことです。10組の芸人がそれぞれ個性を発揮して、10通りの面白い漫才を見せてくれたということを、もっとしっかり味わって楽しむのが望ましいのではないでしょうか。

特に、構成も技術も優れている和牛の漫才の面白さについてあまり語られていないのはもったいない。優勝した霜降り明星が面白かったことに疑いの余地はありませんが、和牛も同じくらいのことをやっていました。その点を素直に讃えたいのです。

これまで『M-1』で傑作ネタを数多く「消費」してきた和牛に対して、さらなる進化を求めるのは酷なことかもしれません。しかし、彼らならきっとやってくれるはずです。来年の『M-1』でも、和牛が優勝候補の筆頭であることに変わりはありません。この経験を踏まえて、当代随一の実力派漫才師がどんなネタを見せてくれるのか今から楽しみです。

ラリー遠田 作家・ライター、お笑い評論家

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らりーとおだ / Larry Tooda

主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)など著書多数。

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