九州新幹線「長崎ルート」はどう決着するのか フリーゲージトレイン断念で完成図は見えず

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当のFGTは、ミクロン単位の繊細な改良を施し、2016年12月から3カ月間、改造箇所の検証走行試験を行って、故障が発生した約3万kmの段階の2017年3月に実車走行をいったん切り上げ、再検証を行った。その結果、同年7月、国土交通省は改良台車による走行試験でも摩耗が見つかったことを公表した。摩耗は100分の1まで減らせたので肯定的な評価もされたが、ゼロではなかった。これによりリレー方式での開業から3年後の2025年度に導入する計画についても、間に合わないと見解を示した。

高コストで「収支採算性が成り立たない」

この直後、JR九州の青柳俊彦社長は、与党検討委員会の場で「FGTによる運営は困難」と発表した。FGTの開発では、経済性の課題も残されていた。台車の特殊機構に加えて新在直通のため保安設備を多重で備え、それらの重量増を抑制するために高価な軽量化素材や部品を使っている。点検箇所が多く、部品交換も避けられない。このためコストが高い。技術評価委員会では、可動式の車軸交換を繰り返すため、一般の新幹線の場合の2.5~3倍程度の費用がかかるとし、JR九州は全面導入すれば年間約50億円の負担増につながると試算、「整備新幹線の運営を引き受ける前提条件である収支採算性が成り立たない」と、その理由を答えている。

さらにもう一点、速度の問題がある。整備新幹線の最高速度は、整備計画決定の1973年時点で時速260kmとされ、JR発足により建設・保有主体と運行主体を分けた上下分離体制、それに伴う財源スキーム上の複雑な事情が絡み、速度向上に誰も踏み込めず、変更されていない。そのため、FGTも設計最高速度時速270kmで開発されてきた。だが、長い間に既設路線では時速300kmの時代となった。西九州ルートでFGTが実用化した場合、山陽新幹線へ乗り入れて高速ネットワークを広げることが重視されていたが、時速300kmで運行されるほかの列車の中に将来にわたり時速270kmで目いっぱいの列車を織り込むことは、列車ダイヤ全体を歪めてしまう。それでJR西日本が難色を示していたのである。

こうした状況から与党検討委員会は、国土交通省に対して宙に浮いてしまった新鳥栖―武雄温泉間について、根本的な整備方式から再検討を求めた。その結果は2018年3月に発表された。そこではFGTとミニ新幹線2方式、そしてフル規格が挙げられている。もはや武雄温泉―長崎間はフル規格として工事が進んでいるため、スーパー特急は比較検討対象に入っていない。

これまでのFGT導入計画に対していずれも追加費用が発生し、当然ながらフル規格整備が突出するが、時間短縮効果は最も高い。開業見込みは純粋な工期のほかに、フル規格の場合はルートの詳細調査と環境アセス、ミニ新幹線の場合も環境アセスが必要で完成までに時間を要する。ミニ新幹線を複線三線軌で実施する場合、営業しながらの線路改築になるため、フル規格の路線を新設するより長い工期が予測されている。そして投資効果、収支改善効果はフル規格が最も高い一方、FGTでは逆に年間約20億円も、現状より収支が悪化すると分析されてしまった。

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