ゲーミフィケーション×OJTの人材育成 “ハイブリッド型”グローバル人材育成のすすめ

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言語も価値観も異なる各国の新入社員に対し、ストレスなく、スムーズに会社の業務ルール、価値観を理解してもらうためには、こうしたゲーミフィケーションの仕組みは最適だ。ただし、会社としてこれだけはグローバルで周知徹底したいという業務ルールや価値観は、細かい部分まで明文化・共有しておくことが前提となる。

【事例①】Hilton Garden Inn (海外の事例)
 世界的なホテルチェーンであるHilton Garden Innでは、日々のオペレーション(接客、清掃等)を疑似体験するシミュレーションゲームを、全世界の系列ホテルに導入している(ツールとしては、市販されている一般的なポータブルゲーム機を配付している)。新入社員が接客、清掃、修理、給仕の各業務を、ゲームを通じて学習するために設計されており、さまざまな状況における顧客からの依頼、問い合わせへの対応状況に応じて、顧客満足度(CSスコア)が点数で表示される仕様となっている。たとえば、室内の清掃作業を例にとると、目に見えないところの清掃(家具の上、机の下など)や、顧客入室前の室温調整までしっかりすると、CSスコアは向上する。 このため、ホテルマンになりたての各国の新人たちは、同期よりもCSスコアを向上させようと、ゲームの中であれこれ試行錯誤を繰り返す過程で、自然とホテルマンとしての基本動作が身に付く仕掛けとなっている。

 

STEP2: 疑似体験を積んで実践応用力を身に付ける

次の段階は、基本知識をベースに、実践で試行錯誤しながら、最適なやり方を見つけことである。ここでも、OJTに頼らず、ゲーミフィケーションを活用することで、一定のレベルまで短期間に底上げすることが可能である。

ただし、単にリアルなシミュレーションゲームを作って現場に展開すればよいという簡単な話ではない。ゲームの中に、商売上のビジネスロジック(KPI)をきちんと組み込むことが必要だ。たとえばアパレルでいえば、立地条件や客層、天候によって販売計画を立てさせ、その達成率が、過去の実績に基づき、リアルに計算されるようにする。また、ゲームの中での気づきをいかに実践に反映させるか、ファシリテーター役の役割も重要となってくる。

つまり、「単に楽しんで終わり、知識を得て終わり」ではない。現場での実践力向上につながるシミュレーションゲームを作ろうと思ったら、その会社や業界、顧客への深い洞察力を備えたビジネスパートナーの支援が不可欠である。単に、楽しいコンテンツ開発力に長けたゲーム会社や広告会社に任せっぱなしではダメだということだ。このことを理解するために、アクセンチュアが支援している、ユニリーバの営業マネジャー向けゲーミフィケーション導入の事例を見てみよう。

【事例②】ユニリーバ (海外事例)
 ユニリーバの営業マネジャーには、価格設定や新商品発売がもたらす自社や顧客への財務インパクトを把握するなど、単なる販売マシーンではなく、経営者としてのビジネスセンスが求められる。しかし、予算に追われているセールスマネジャーには研修に割くことのできる時間が限定的という制約がある中で、質の高いトレーニングをグローバル規模で展開する必要があった。そこで、ユニリーバでは、ヴァーチャルに別々の拠点の社員数人がチームを作り、ビジネスシミュレーションを行うトレーニングを採り入れた。参加者は部門をまたがるような課題について、Web上でログインし、電話で議論しながら意思決定する形でゲームを進める。

このトレーニングの進め方で興味深い点は、シミュレーションを通じてユニリーバのビジネスの文脈に合う形で、実際に使えるビジネス感覚について気づきを促すために、各チームにファシリテーターとしてアクセンチュアのコンサルタントを起用していることである。このトレーニングのスタイルは参加者にもその上司にも好評で、セールス以外の部門への展開も試みようとされている。

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