毎食「米3合食え」と迫られる野球少年の壮絶 午前0時まで泣いて食べる小5の絶望

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「本当に驚きました。本来なら小学生が就寝すべき夜9時まで練習し、それから米3合食べて就寝が夜中では、成長ホルモンが分泌する時刻に間に合わないので身長が伸びません。夜中に食べることで胃腸がもたれて朝ごはんがしっかり食べられないため、日中の活動に支障をきたします。本末転倒です」と成田教授は勘違いの“食トレ”に警鐘を鳴らす。

「野球食」なる言葉が登場したのは2000年前半。その後、ラグビー、サッカー、駅伝などで日本のトップアスリートたちがスポーツ栄養、「食トレ」に励む文化が生まれたが、その起点になったのが野球食だった。

それが小学生にも下りてきたのだろうか。正しい栄養指導を受けられない親たちは不安そうだ。

都内で小学6年生の野球少年を育てる40代の母親は「うちは団長が楽しく野球をやろうと方針を示しているチーム。息子も含めてみんな体は小さいけど、そこまで食事のことを厳しく言われない」と明かす。

ただ、親睦会などでコーチと話すと「実際、体が大きい子がいるほうが勝てる」とか、「野球は体が大きくないと話にならない」といった本音も聞かされる。

「根尾(昂=大阪桐蔭高校)君なんて、そんなに大きくないけど凄い選手じゃないですか。全員4番になれるわけじゃないのに。どのくらい食べさせたらいいのか。そもそも本人が嫌がるのに食べさせていいのか」

メディアの影響による勘違い

そこで、帝京大学スポーツ医療科学科助教でスポーツ栄養士の藤井瑞恵さんに、それらの疑問について聞いてみた。スポーツクラブの子どもたちの栄養指導の経験があり、現在は大学選手権10連覇を狙うラグビー部の栄養サポートをしている。

藤井さんはまず、メディアの影響による勘違いを指摘する。

「ここ数年、スポーツ栄養がメディアで取り上げられるようになり、テレビなどで、高校生や大学生のトップアスリートはこんなに食べてますよ、といった様子が報じられます。悪いことではないのですが、それを見て、小学生にも、とか、小学生からやればいい、などと勘違いされているのではないか」

無論だが、米3合に根拠はないという。

「続けていたら、体に変調をきたします。消化不良を起こし胃腸障害のもとになりかねません。下痢をしたり、嘔吐したら、ほかの栄養素も外に出てしまって逆効果。背も伸びません」

藤井さんによると、野球をはじめスポーツ少年の正しい栄養摂取は「さまざまな食材を適量食べて、しっかり吸収する」ことだ。

成長期にある小学生の間は、骨の形成にポイントを置く。骨が鉄筋とコンクリートでできていると仮定すると、鉄筋部分はコラーゲン。骨のしなやかさ、骨の質を決める成分だ。コンクリート部分はカルシウムになる。

コラーゲンをつくるには、肉や魚、卵から摂取するたんぱく質や柑橘類などに含まれる「ビタミンC」が必要になる。カルシウムは牛乳や小魚など。そのカルシウムを体に吸収しやすくするには魚やきのこ類などに含まれる「ビタミンD」と、納豆や春菊、ほうれん草などの葉物、海藻に含まれる「ビタミンK」を摂ってほしいという。

白飯が好きな子どももいるが、ふりかけをかけて食べて終わり、ではいけない。ごはんは糖質で、エネルギーに変わる大事な栄養素だが、その糖質をうまくエネルギーに変えるには豚肉や豆類にある「ビタミンB1」が必須であり、そのB1を吸収しやすくするには、一緒にネギやニンニクに入っている「アリシン」を摂る必要がある。

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