外国人が殺到する「ジャパン・ハウス」の正体 あのYOSHIKIやウィリアム王子も訪れた

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日本の食文化やポップカルチャーは世界的に人気があるものの、海外における「日本」の国家としてのイメージは、いまだステレオタイプであることが多い。現地メディアの報道においても、日本はあまり存在感がなく、取り上げられても、偏った報道のされ方であったり、ネガティブな事象を中心に取り上げられたりする傾向にある。

ジャパン・ハウスは、こうしたステレオタイプを改め、文化、食、言語、テクノロジー、歴史といった、あらゆる視点から「日本に目覚めてもらう」ことを目的としている。その点で、新たな拠点は「草の根」から日本に対するイメージを変えてもらう役割を果たすことができるかもしれない。

日本の「魅力」を見直すタイミング

だが、問題は伝統文化やマンガ、アニメといったソフト面で外国人にアプローチすることが、必ずしも政府の最終的な目的である歴史や、領土問題における日本の立場を理解してもらうことにつながるかわからない、ということである。

「多様な日本の魅力」の対外発信拠点において、日本政府が露骨に自らの主張を発信すれば、反発を招き、デモや嫌がらせも起きかねない。実際、過去には、アメリカは安倍政権が「歴史修正主義者」であると批判し、また国連人権委員会は、第2次世界大戦期の慰安婦を「性奴隷」と結論づけてきた。

日本の政治や歴史認識に対しては、アメリカのみならず、国際社会においても批判の声はあったが、その背景には、特にアメリカにおける中国や韓国による反日ロビー活動もある。歴史や領土問題関連の展示に対しては、いずれの国にも反対勢力が存しており、発信は慎重に行わなくてはならない。

これまで、来場者数では成功と言えるジャパン・ハウスは、当初の3年間という設置・運営の予定を超えて、2019年度以降も継続運営となる可能性があるという。しかし、同ハウスを通じて海外で本物の日本ファンを作るためには、つねに新しい魅力を発信することが欠かせない。そこで課題になってくるのが、現地の人が知りたい日本と、日本が発信したい情報のギャップをいかに埋めるか、である。

つまり、日本は「日本の魅力」を見直す時期にきており、世界が感じる魅力に対して、できるだけ影響力の高いコンテンツを発信するべきだろう。たとえば、アメリカでは日本における自然災害に対する関心は大変高いため、日本が誇る災害救助能力を写真や装備品で紹介しつつ、その一部に東日本大震災時にも世界で話題になった日本人の規律正しい姿などを写真で見せるといった展示をしてもいいかもしれない。

また、近年ヨーロッパのチームで活躍するサッカー選手が増えているので、ロンドン館では、こうした選手たちの紹介や、Jリーグ発展の軌跡などを紹介したら面白いのではないか。

ジャパン・ハウスという新たな拠点を活用しながら、日本がこれまで気づいていなかったかもしれない魅力を探り、それに応えていく。それがPDの強化になるだけでなく、今後日本がこれまでとは違う形で発展していく道につながるかもしれない。

桒原 響子 未来工学研究所研究員

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くわはら きょうこ / Kyoko Kuwahara

パブリック・ディプロマシーなど、各国の戦略的発信を中心とした外交戦略を専門にする新進気鋭の研究者。2012年米国ウエストバージニア大学で国際政治学や通訳・翻訳などを学び、2017年大阪大学大学院国際公共政策研究科修士課程修了。笹川平和財団研究員、外務省大臣官房戦略的対外発信拠点室外務事務官などを経て、2019年から未来工学研究所研究員、日本国際問題研究所研究員、京都大学レジリエンス実践ユニット特任助教。

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