安田純平さん突然「解放」、背後に2つの要因 3年間拘束され続けていたのに

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幸いだったのは、過激派組織「イスラム国」(IS)に身柄が渡らなかったことだ。ジャーナリストや援助関係者を標的とした人質ビジネスが内戦の激化とともに活発化したシリアでは、人質が武装組織の間で転売されて価格がつり上がることが多く、武装組織や犯罪集団がISに人質を売り渡すこともしばしば起きていた。ISは、西側政府を外交的に揺さぶったり、恐怖を与えたりするために後藤健二さんら多くの人質を殺害してきた。

一方、シリア解放機構などほかのイスラム過激派は、軍資金を得るための手段として人質ビジネスに手を染めており、1人当たり数億円から30億円程度の身代金交渉が行われてきた。筆者が2013年にシリア内戦を取材した際に接触したイスラム過激派たちは、イスラムによる統治を求め、ISに見られるような残虐性を見せることは少なかったが、この頃から身代金目当ての外国人誘拐が活発化した。

最後はカタールが金を出して決着

シリア内戦が最終局面を迎える中、イドリブ県に集結する武装勢力に未来はない。一部は最後まで抵抗を続けるだろうが、大半は武装解除を迫られ、シリア政府と取引可能な者は一般市民に戻ったり、海外での亡命生活を選んだりする選択肢しか残されていない。

イドリブ県には、外国人戦闘員も多く加わっているとみられ、出身国の欧州やアラブ諸国に帰還した戦闘員によるテロが起きることも懸念されている。こうした中、安田さんの身柄を確保していた武装勢力にとっては、拘束を続けることが重荷になっていたはずであり、身代金の額を下げて「換金」を急いでいたという事情がありそうだ。

そもそも、安田さんはなぜ解放に至るまで3年以上の時間を要したのだろうか。安田さんが拘束された、ほぼ同じ時期の2015年7月にスペイン人ジャーナリスト3人がヌスラ戦線に拘束され、カタールとトルコ政府の仲介で2016年5月に解放されている。

この際は1人当たり約4億円をスペイン政府が支払ったようだ。これに対し、日本政府は一貫してテロ組織との身代金交渉を否定し、政府関係者によれば、実際に金額をめぐる交渉は政府レベルでは行われなかった。最後は、カタールが金を出すことで決着した形だ。

シリアをめぐる日本人人質事件では、2015年に湯川遥菜さんと後藤健二さんがISに殺害されている。その際、日本政府はIS掃討作戦に加わるヨルダンに現地対策本部を置いた。この判断に対して、一部の中東専門家からは、ISにパイプを持つトルコに設置すべきだったとの批判も上がった。安田さんの拘束事件では、イスラム過激派に影響力を持つカタールやトルコに当初から仲介を水面下で要請したことが奏功した。

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