高級新車も手に入る残価設定ローンの光と影 さまざまなリスクと負担考え、慎重な検討を

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残価設定ローンには2種類ある。「オープンエンド」と呼ばれる輸入車で一般的なものだと、ローン期間終了後の査定次第で差損益が発生するリスクがある。つまり、車両の状態が基準以内であっても、中古車市場で人気がなければ下取り額が低いので、最後に追い金を払って精算しなければならないのだ。

こうしたリスクを販売店が負担しましょう、というのが「クローズドエンド」と呼ばれるタイプで、国産車の多くやBMW、VW(フォルクスワーゲン)など一部のインポーターが選択可能としている。こちらは販売元がローン終了後の下取り額を保証して販売するため、ユーザーにとってリスクが低い代わりに、残価設定額は低くなる。

残価設定ローンは「金融商品」

例えるなら、住宅ローンでリスクを取っても変動金利の低い利率を選ぶか、リスクを取らず固定金利で高い金利を我慢するか、という選択に似ている。このクローズドエンド・タイプのローンはいま人気で、シェアを急拡大している。それでも全メーカー/インポーターが一斉に採用とはならないのは、車両の残存価値が急落するリスクを取るのが難しいからだ。

MINIのサイトでは、通常ローンとオープンエンド型、クローズドエンド型の支払い金額を容易に比較できる(写真:MINI公式サイト)

もう20年近く前の話、英・ローバーがBMWに身売りする直前、日本法人が「ローバー・スマート・オーナーシップ」と銘打って一律3年・50%の残価設定で売り出したものの、本社の経営破綻もあり車両価値が急落、差損を負担したディーラー網の経営を危うくした失敗を覚えている自動車好きや業界関係者は少なくないだろう。

そして販売サイドにとって、3~5年後にローンが終了するというのは、再び新車を売り込めるチャンスである半面、戻ってくる高年式中古車をうまく処理しなければならないという別のプレッシャーも生じさせている。

最後にユーザーの視点に返ってみると、残価設定ローンがこれまでなら手が届かなかった新型車を、覚悟のうえで入手できる可能性を切り開いてくれたことは大いに歓迎したい。20代の若いうちにスポーツカーで腕と感性を磨きたいとか、結婚して子どもができる前にオープン2シーターを楽しみたいとか、両親が元気なうちに快適なクルマで旅行に出掛けたいとか、人生には後からでは戻れない節目というものがある。3年か5年と区切ってそういうぜいたくを楽しむのは、決して間違っていないと思う。

一方で、これまで述べたとおり残価設定ローンは「金融商品」なので、車種、利用状況、金利、保険などに応じてリスクや負担額は大きく変わる。さまざまなケースを想定して遠慮せずセールスマンから見積もりを取って、慎重に検討することをお勧めしたい。

真田 淳冬 コラムニスト

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さなだ きよふゆ / Kiyohuyu Sanada

メーカーはじめ自動車業界に長らく籍を置き、1950年代から現代に至る世界中のさまざまな乗用車をドライブした経験を持つ。歴史、経済、技術といった分野をまたぐ広い知見を買った東洋経済オンライン編集部が独自に著者として招いた。

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