ノーベル賞で脚光、「小野薬品」の期待と現実 「オプジーボ」拡大に喜んでばかりいられない

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米メルクはここ1年強の間に、英AZとの間で最大約9000億円、エーザイとの間では最大6100億円の大型業務提携を結んだ。英AZの抗がん剤「リムパーザ」、エーザイの同「レンビマ」との併用療法で、グローバルでの共同治験や販売提携を進める構えだ。

実際、レンビマとの併用療法の治験では、子宮内膜がんなどで効果が現れる患者の比率が増えた。被験者のがんが悪化しない期間の平均値も7.4カ月となるなど、単剤の効果を上回る数値が出ている。

併用療法の拡大には資本力、規模の大きさが物を言う可能性がある。米メルクの戦略にもその狙いがある。その点で、米メルクの動きに小野薬品―BMS連合がやや遅れを取っていることは否定できない。さらに牙城だった国内市場には、ロシュ―中外製薬が新薬を投入、米メルク(国内はMSD)も攻勢を強めている。

小野薬品にとって悩ましいのは、国内や韓国・台湾の治験・販売は小野薬品が主導できても、アメリカや欧州など海外市場の大半ではBMSに頼らざるを得ない点だ。

この3年でMRを5割増員

もちろん、小野薬品とて手をこまぬいてはいない。米BMSのがん免疫治療薬・ヤーボイとの併用療法の治験では、8月下旬に国内で「腎細胞がん」の1次治療で承認を取得した。エーザイ、武田薬品工業、第一三共とも併用治験を進めつつある。

小野薬品は過去3年間でMR(医薬情報担当者)を5割増員、今期中に280人にまで増やす。適応拡大に合わせ、専門性の強いがん専門病院・医師への営業を強化するためだ。

小野薬品の今期の研究開発費は700億円。対売上比率で25%を計画する。2割が標準とされるメガファーマに比べても、研究開発志向は高い。それでも絶対額ではメガはおろか国内製薬大手にも劣る。しかもその多くが、次々と続くオプジーボの治験に費やされる。

「オプジーボに代わるような商品ができればいいけど、そういうことは難しい」。関係者のつぶやきは、そのまま小野薬品の置かれた苦悩を表す。「オプジーボ」頼みはいつか脱却しなければいけないが、当面は「オプジーボ」強化に頼らざるをえない。小野薬品はそんなジレンマにいる。

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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