退職勧奨に応じた34歳男性がハマった袋小路 「このままではホームレスになるしかない」

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これまで仕事が長続きしなかった原因について、テツハルさんは「巡り会った上司たちがあまりにもヘンな人たちだったからです」と怒りを込める。そして、今後はパワハラや退職強要のターゲットにならないよう、「自衛策として、職場では業務以外の話はしないようにします」と続けた。

テツハルさんとのやり取りはスムーズで、社会人としても十分に有能に見えた。一方で、「怒りのポイント」が私とは微妙にずれていた。

テツハルさんの後任がアルバイトなのは、彼の担っていた仕事が取るに足らなかったからではなく、会社がより簡単にクビにできる、低賃金の非正規労働者に置き換えたからだ。非正規労働者が増える中、正社員並みの業務を任されるアルバイトや契約社員は大勢いる。

また、上司らの属人的な問題もさることながら、パワハラを見て見ぬふりをしたり、こそこそと無期転換逃れをしたりする企業側の構造的な問題のほうがより深刻なのではないか。

なにより、会社に言われるまま退職に応じていては、正社員になった意味がない。

守ってくれる労働組合なんてなかった

そう伝えると、テツハルさんはこう答えた。

「抵抗しようにも、(守ってくれる)労働組合なんてありませんでした。個人で入れるユニオンとかいうのがあると聞いたけど、どういうところかよく知らないし。どっちにしても会社とやり合えば、時間と手間がかかりますよね。それよりも嫌なことは一刻も早く忘れたいんです。新しい仕事をして、嫌な記憶から早く逃れたいんです」

失業から5カ月余り。猛暑が一段落した今も、まだ次の仕事は見つからない。

「このままではホームレスになるしかない」

そう不安を漏らしていたテツハルさんからは、取材後もLINEが届いた。

「(約束の)期日に結果を教えない企業は最悪」

「私はやはり社会から死を宣告されているのでしょうか」

進むも地獄、退くも地獄――。テツハルさんはそんな袋小路にはまっている。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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