「モンハン」配信停止、中国ゲーム業界の内情 世界最大市場だが、当局の規制動向は不透明

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今回の販売停止を受け、中国当局による規制強化への警戒感が高まっている。テンセントのラウ社長は「(規制強化によるものではなく)今回限りの出来事だ」と話す。ただ、問題はこれだけではない。今年の春以降、新規ゲームの販売承認許可が出なくなっているのだ。

3月の組織再編では前出の広電総局が大きく3つの組織に分けられ、文化部と旅行部が統合されるなど、関係機関に大きな動きがあった。それに伴い、一部の権限が中国共産党の中央宣伝部傘下に移るなど、ゲームの審査・承認プロセスも変化した。国内のスマホゲーム会社幹部は「許可の凍結は組織再編による一時的なもので、じきに解決する」としつつも、「想定よりも長引いている」と不安げだ。

ネット上の表現全体に規制強化か

別のゲーム会社幹部は「ゲームに限った話ではなく、ネット上の表現全体に対する検閲・規制の動きが強まっている」と指摘する。たとえば、昨年には共産党系メディアが若者のゲーム依存症を取り上げ、テンセント批判を展開している。今年1月に文化部は中国国内の企業に対し、規定を違反しているアニメの配信停止を要求。約28万件のアニメやマンガ、ゲームが配信サイトから削除された。その後もコンテンツの取り締まりをたびたび実施している。

とはいえ、中国当局が規制一辺倒というわけではない。ゲーム産業は政府による産業振興の対象となっており、とりわけゲーム対戦をスポーツ競技として行う「eスポーツ」は、政府機関の国家体育総局が大会を主催するなど取り組みも積極的だ。

アメリカ発プラットフォームの「Steam」は無検閲のゲームでも中国国内でプレイできる(画像:Steamウェブサイトをキャプチャ)

アメリカのバルブ・コーポレーションが運営するゲームプラットフォーム「Steam」への対応にも、当局の微妙な態度が見え隠れする。Steamは世界中で提供されているため、中国でも無検閲のゲームを遊ぶことができる。

これに対し当局は、昨年Steamのコミュニティーサービスへのアクセスを規制したものの、ゲーム自体は今も遊べる状態を維持している。一方、バルブ側も中国版Steamを現地企業と共同でリリースすると発表。こちらは検閲済みゲームを配信するとみられている。今後当局とSteamの関係がどうなるかは不透明だ。

中国でも人気のゲームシリーズやキャラクターなどのIP(知的財産)を多数保有する日本のゲーム企業にとって、中国市場が有望であることは間違いない。当局の動向がリスク要因なのは今に始まった話ではないが、今後はより一層、チャイナリスクに注意しながら市場開拓を進める必要がありそうだ。

渡辺 拓未 東洋経済 記者

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わたなべ たくみ / Takumi Watanabe

1991年生まれ、2010年京都大学経済学部入学。2014年に東洋経済新報社へ入社。2016年4月から証券部で投資雑誌『四季報プロ500』の編集に。精密機械・電子部品担当を経て、現在はゲーム業界を担当。

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