清須会議に学ぶ三谷幸喜流の「会議論」 「会議とは相手を説得することだ」

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困難を解決していく職人になりたい

――三谷さんが思う理想の仕事人像はありますか?

僕は職人にあこがれています。僕はもちろんクリエーターでもあるのですが、僕の理想はやっぱり職人です。アーティストは自分の好きなものを自分の好きなように作っていいと思うのですが、僕はそれよりも、誰かが僕に何かをやらせたいと思わせることのほうが大事。もちろん自分のやりたいことはあるのですが、人が求めるものに応えるほうが僕にとってはより大事です。その中で自分の好きなものをそこに忍ばせていくような、そういう人になりたいなとずっと思っています。

できればみんながほとほと困っているほうがいい。「もうあなたしかいないんですよ」と言われたときに、「しょうがないな。わかりました。やりましょう」と言いたい。そういう人になりたいですね。

――『ラヂオの時間』をはじめ、みんなが困りに困り果てている中、それを何とか乗り越えようとする内容の作品が多いように思います。そういうところも根底にあるのでしょうね。

三谷幸喜 みたに・こうき
1961年東京都出身。日大芸術学部演劇学科在学中の1983年に劇団「東京サンシャインボーイズ」を結成、人気劇団となった。その後、深夜ドラマ「やっぱり猫が好き」の脚本でテレビの世界で注目を集め、「振り返れば奴がいる」「古畑任三郎」「王様のレストラン」などのヒットドラマを連発した。1997年には『ラヂオの時間』で映画監督デビュー。その後も、舞台、映画、テレビとさまざまなジャンルで、幅広く活躍している。そのほかの映画監督作品として『みんなのいえ』『THE 有頂天ホテル』『ザ・マジックアワー』『ステキな金縛り』などがある。

そうですね、実際にそういう現場を何度も見てきましたからね。困難を解決していくさまがかっこいいんですよ。それはいつも僕の中での重要なモチーフになっています。やはり制約なんですよ。何でも好きなことをやっていいよと言われると、僕は何もできないし、制約がないと考える事もできない。

テレビドラマというものは制約だらけなんです。1時間のドラマは正味45分ですが、その中にCMが3つあって、しかもスポンサーのことを考えなければいけない。たとえばミステリーを書く場合、自動車会社がスポンサーについているから、殺人事件のときに車を使っては駄目だとか、薬のスポンサーがついていたら毒殺も使えない。その中でいかに面白いミステリーを作るかという。そういう制約が僕は好きだし、すべての注文をクリアしたうえで、自分の色が出せたらどんなにいいだろうかと思う。そういうものができたときに「俺ってなんか職人じゃん」と感じます。

――『清須会議』では、声優の山寺宏一さんが「いろんな声」でクレジットされていたのですが、主にどういう声をやられてたのですか?

蚊です。それと馬のいななきもやってもらいました。

――山寺さんは“七色の声を持つ男”と呼ばれるだけあって、いろいろな声を披露されていますよね。

それからエキストラの声ですね。本能寺の変の焼け跡で、見物人がいるシーンで、俳優さんじゃない人が出てくるので、そういう人たちの息遣いなんかをお願いしまいした。ちょっと山寺さんにやってもらうのは縁起物になっているので。それから三法師。子供が笑っている声もやってもらいました。でも蚊がいちばん難しかったですね。

――それは三谷さんのリクエストで。

そうです。彼こそ職人ですから、できないと言わないのです。何でもやっちゃう。本当にかっこいいですね。

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