トルコを追い詰めるとシリア難民が暴発する 暴君エルドアン大統領より深刻な米国との溝

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 8月14日、トルコのエルドアン大統領はアメリカ製の電化製品に対し、「不買運動を実施する」と宣言した(写真:ロイター/Umit Bektas)

トルコリラが暴落している。数年前まで対円で60円近辺にあったトルコリラは、現在10円台後半と4分の1程度まで下がった。日本では高金利のトルコリラ建て投資信託は人気商品だったため、今頃ほぞをかんでいる投資家が多い。米S&Pの国債格付けも「シングルBプラス」と投機的格付けにあり、この格付けでは海外からの投資(資金流入)は困難だ。トルコリラは底値圏とはいえ、まだ下がる余地がある。

このトルコリラ暴落の原因として、エルドアン大統領の強権政治にアメリカが反発し、制裁を強化、最近では鉄鋼やアルミ製品の輸入関税を大幅に引き上げたことなどが挙げられている。しかし、トルコとアメリカの軋轢の根は、もっと深い。最大の焦点は、アメリカの福音派牧師ブランソン氏の釈放問題だ。2016年7月、トルコでエルドアン政権打倒を企てたギュレン教団が中心にいたとされる、クーデター未遂事件が勃発。これに対しトルコ政府は、アメリカに滞在するギュレン師の身柄引き渡しを再三求めているが、アメリカは応じていない。さらにトルコ政府は、ブランソン氏がギュレン運動に加担したと判断し、身柄を拘束している。

クルド人を使ったアメリカをトルコは許せない

アメリカとトルコの軋轢はこれだけではない。

シリア内戦が激化していたとき、シリア政府軍と反政府軍、それにIS(イスラム国)が三つ巴の戦闘を繰り返していた。ところがアメリカには、シリア政府軍とISに対抗する信頼できる地上軍がなかった。そこでアメリカが使った駒が、トルコが忌み嫌う「クルド人」勢力だ。それにクルド人勢力は健闘してアメリカの期待に応え、一方のアメリカは資金や武器の援助をした。

クルド人の勢力は、トルコ、シリア、イラン、イラクにまたがっている。国家を形成していない最後の大きな民族ともいわれる。特にトルコでは東部、南部を中心に人口が集積。クルド人はトルコ人の約20%を占めているとされるが、クルド人も一枚岩ではなく、トルコ政府や軍で栄達した人も多い。だが、多数はトルコ共和国には包摂されず、テロや武装闘争で独立を志向している。そのクルド人勢力を、アメリカがシリア内戦やIS掃討で活用し強化したことを、トルコは許せない。

トルコはアメリカに対抗して、ロシア、イラン、カタールなど「反米」国との連携を模索している。しかし、トルコは北大西洋条約機構(NATO)の有力国であり、かつての冷戦時代は旧ソ連に対する南側の守りとして、重宝されてきたアメリカの「同盟国」であった。

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