「就活勝ち組」たちが早期退職を決断した理由 だから3年も経たず、私は人気企業を辞めた

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宮田さんは埼玉県全域のスーパーや小売店をカバーする営業マンだった。店舗に商品の導入や販促物の設置を提案して、売り上げを伸ばすのが主な業務。人手が足りなければ、陳列も手伝い、スーツはいつも泥まみれになっていた。

日々の仕事では、売り上げを確保するために、担当店舗に無理を言って多めに発注を取ることもあった。店舗では保管し切れず倉庫に並べられる商品をぼんやりと眺めながら、「こんなことがしたかったんだっけ」と悩むようになった。

「やはり語学力を活かして、海外で仕事したい」。そんな思いが日に日に強くなり、宮田さんは「4年目を迎えるとき、海外事業に携われなかったら、会社を辞めよう」と決めた。B社に在籍した3年間、評価面談のたびに上司にその思いを伝え続けるも、結局願いは叶わず。辞表を書く決意をした。

退職後、宮田さんは7カ月間の月日をかけて、海外へ旅に出た。「会社を辞めて、自分が何をしたいのかわからなくなっていました。働いてみたい国を探し、仕事への価値観を見つめ直したかった」のだという。

その後、昨年11月に帰国して、新たに選んだ道は起業だった。旅先で出会った日本人起業家から知見を得て、「それまで考えたこともなかったですが、個人で仕事は作っていける。そんな気持ちが芽生えました」と宮田さんは話す。現在のウェブメディアの運営などは、学生時代に描いたグローバルに活躍する仕事とは違うものの、「今は自分らしく仕事できています」と胸を張る。

やってみたいことより、「上司との相性」

新卒社員がわずかな期間で辞めてしまう原因は何なのか。事業会社の人事コンサルティングを手掛ける人材研究所の社長で、企業の人事担当も20年間務めた曽和利光氏は、企業と学生それぞれの課題に言及する。

まず企業側の問題から見てみよう。曽和氏は、配属希望を叶えようとする人事担当者の善意が、結果的に配属後のミスマッチを生んでいると分析する。「新卒社員がすぐに辞めてしまう最大の原因は、上司との相性など人間関係です。であれば、優先すべきはやってみたいことの尊重よりも、一緒に働く社員のパーソナリティとの適合性のはずです」。

人事担当者にも苦悩がある。新卒社員の採用が1年がかりの業務なのに対し、配属は1カ月ほどで結論を出さなければならない。そもそも時間が限られているうえに、希望を叶えられなかった社員がすぐに辞めてしまえば、人事のせいだと文句を言われる。うがった見方をすれば、希望を叶えて辞められる分には、その社員に我慢が足りなかったと言い訳が立つ。

曽和氏は「勇気をもって希望を無視する。人事担当者が悪者になる覚悟を持つことです。結果的にその決断が、企業も社員も幸せにすると信じましょう」と強調する。

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