《財務・会計講座》加重平均資本コストと事業リスク~リスクをどちら側から見るか~

《財務・会計講座》加重平均資本コストと事業リスク~リスクをどちら側から見るか~

ファイナンス理論では、「企業価値」は「企業が生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)」を「資本コストである加重平均資本コスト(WACC)」で割り戻して計算する。WACCとは、有利子負債コスト(借入金の利回り)と株主資本コスト(株主の期待利回り)の加重平均である。一方、ファイナンス理論における資産価値評価の中核をなすDCF法(ディスカウンテッド・キャッシュフロー法)では、資産価値は、「その資産が将来、生み出すキャッシュフロー」を「そのキャッシュフローのリスクに大きさに見合った割引率」で割り戻して計算するとしている。

 ここで疑問が生じる。調達資本の平均コストであるWACCはバランスシートの右側から算出されるが、これはバランスシートの左側にある資産のリスクの大きさに見合った利回りなのだろうか。結論から言えば、この問いへの答えは「Yes」となる。これは、バランスシート(時価ベース)の右側と左側のどちらから(つまり、企業経営者それとも投資家のどちらの視点から)見るかのだけの違いである。今回は、このメカニズムを解いてみよう。

■WACCはFCFのリスクの大きさを表しているか

 まず、「WACCはFCFのリスクの大きさを表しているか?」という問題を考えてみよう。

 以下のような状況を想定してみよう。なお、単純化のため税金は存在ないと仮定する。

1)永久年金型で毎年同額のキャッシュフローを生み出し、余剰キャッシュフローは全て投資家に還元(利子及び配当金)する企業を想定する。
2)この企業の企業価値(A:時価ベース)は100億円で、有利子負債(D)50億円、株主資本の時価総額(E)50億円で構成されているとする。
3)有利子負債そして株主資本の提供者(投資家)は、それぞれ4%(有利子負債の期待利回り=rD)そして10%(株主の期待利回り=rE)の利回りを要求しているとする。WACCはrDとrEの加重平均であるから7%となる。

 上記の状況において、この企業は毎年、Dの投資家には2億円、Eの投資家には5億円のキャッシュを還元しなければいけない。毎年合計で7億円のキャッシュを投資家に分配することになるが、この原資は当然バランスシートの左側にある資産(A)が生み出すしかない。

 ということはバランスシートの左側にある資産Aはその時価額100億円に対して7億円のキャッシュを毎年生み出していることになる。したがって、資産Aの利回りは7%(=7億円/100億円)であり、この利回りは資産のリスク、つまりFCFのリスクの大きさに見合った割引率ということになる。

 さらに、バランスシートの左側も右側と同じく7%の利回りであることから、右と左はバランスし、「WACC (加重平均資本コスト)」=「資産が生み出すFCFのリスクの大きさに見合った利回り」となる。

 以上より、DCF法に沿って、「企業価値」は、「企業が持つ資産が生み出すFCFをそのFCFのリスクの大きさを表すWACCで割り戻して」計算すればよいということになる。

■資産のリスクが変化したらWACCはどうなるか

 それでは、「資産のリスクが変化したらWACCはどうなるであろうか?」を考えてみよう。

 ここでは資産の中身が入れ替わり、この結果、資産のリスクが増加した場合、WACCがどうなるかを考えてみよう。

 まず、時価ベースのバランスシートの左側=右側であるから、当然WACCも上昇するはずである。

 このメカニズムであるが、
1)資産Aのリスクが上昇するので当然Aの利回りは上昇する。FCFが不変であれば(議論をシンプルにするためそう仮定する)資産の時価は減少する。
2)Dのリスクが極端に大きくならない限り、Dの時価額は不変であるので、Aの時価額が減少するとEの時価額も同額減少することになる。FCFは一定なのでEに対する毎年の配当金額は不変。したがってrE(Eへのキャッシュフロー額/E時価額)は当然、上昇することになる。一方、rDは不変なので、結果としてWACCはrEの上昇を受けて上昇することになる。

 では、どこまでWACCが上昇するかというと、バランスシートの左側のFCFの利回りに等しくなるまでで、ある。
 例えば、上記の例において資産のリスクが上昇し利回りが10%になったとしよう。WACCが上昇するメカニズムは以下の通りである
1)資産の時価は70億円(=7億円/10%)に減少する。
2)資産の時価額が70億円に減少したが、Dの時価額(50億円)は不変なのでEの時価額は20億円(70億円-50億円)に減少することになる。これによってEの利回りrEは25%(=5億円/20億円)まで上昇する。
3)rD=4%、rE=25%となるが、時価額はそれぞれD=50億円、E=20億円なので、
WACC=4%*50/70+25%*20/70=10%
となり、資産のリスクを表す利回りに一致することになる。

 つまり、資産側のリスクが変化(上昇)すると、Eの時価額が変化(減少)することを通じてrEが変化(上昇)し、結局rEとrDの加重平均であるWACCが資産のリスクの大きさに見合った割引率に鞘寄せ(上昇)されていくのである。
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