あなたを農奴化して搾取する「四騎士」の正体 彼らは世界をどのように創り変えたのか

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ギャロウェイ教授は、フェイスブックについてはわずか10年程度で20億人をつないだ、世界で最も成功した組織であり、グーグルについては我々の心を透視する信頼を寄せるメディアであると評している。マーケティングの教鞭を執るギャロウェイ教授は、フェイスブックを「マーケッターの楽園」、グーグルを「マーケティングの常識を変えた」と解説する。

そしてこれらのサービスは、人間が持つ「人とつながりたい」「知りたい」という欲求を叶えながら、そのクリックを広告価値に変えるシステムである。その一方で、グーグルは忘れる権利で、またフェイスブックはデータ流用問題で、各国の政府や議会から「行きすぎ」への指摘が目立つようになってきた。

これらの仕組みは、理解しにくいのだ。そして理解した人だけが自分を守ることができ、善悪問わず活用できるようになる。同時に、グーグルもフェイスブックも、ビジネスモデルの芸が1つしかない。

これらの企業が、とても米国らしいやり方で次なる成長を手に入れる可能性もまた、存在している。本書では「盗みとペテン」と表現されているが、電車の中で本書の6章にさしかかったら、読んでいて、噴き出さないように注意しなければならないだろう。

300万人の領主と3億人の農奴

GAFAが共有している覇権には8つの法則があり、著者はこれを「Tアルゴリズム」(Trillion Algorithm)と呼んでいる。1兆ドル企業になるためのルールだというのだ。そのルールの中には、優秀で若い人材を獲得するための「地の利」や商品……ブランド戦略も含まれるが、気になるのがAIの活用だ。

我々の懸念のはるか先をゆき、我々の一挙手一投足を情報の油田として集約し、AIでパターン化し、未来を読むようになった。文中では映画『マイノリティ・リポート』に触れられていたが、皆さんがもし今ウェブブラウザの新しいタブを開いたら、そのことをグーグルは把握し、記録しているのである。

前述したように、GAFAが支配する現代における神話の世界では、無知は罪だし、つながりを持たなければ貧しい人だと判断される。データを吐き出さない人に価値はなく、iPhoneを持っていなければ異教徒だ。しかし、なぜそうなっているのかを知ることで、前述のように、自分を守り、またテクノロジーやテクノロジー企業を自分のために活用する側に回ることができる。

10章には、我々がこの世界でいかに生きるかが述べられている。キャリアだけの話ではない。我々の何気ない振る舞いやそのための予備動作からして、神経を尖らせなければならない。

そうした生き方が面白いと感じれば、現代は存分に楽しめるだろう。たとえ、「この調子だとアメリカは300万人の領主と3億人の農奴の国になる」(ギャロウェイ教授)のだとしても、農奴たちが飢えに苦しむわけではないのだ。しかし、「農奴になるのは絶対に嫌だ」と思うなら、あなたは起業し、次の1兆円企業の起業家になるべきなのかもしれない。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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