新幹線、血を付けたまま走り続けた異常事態 なぜ小倉駅を発車?「台車亀裂事故」とも酷似

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博多―小倉間で人身事故が起きたということは、列車が小倉駅に入線した際にはすでにボンネットは大きく破損していたことになる。破損だけでなく、血痕のような汚れが先頭車両に大きく広がっていた異様な状態を、駅のホームにいた乗客の多くが目撃している。

列車の進入時はホーム上の乗客と接触する危険があるため、ホーム上の駅員は列車の状態に目を凝らす。乗客が気づいた異常なら駅員が気づかないはずはない。

台車亀裂トラブルと似ている

今回の一件は、昨年12月に起きた新幹線「のぞみ34号」の台車亀裂トラブルを想起させる。異常の知らせを受けて列車に乗り込んだJR西日本の車両保守担当社員が車内の異音や異臭に気づきながら「列車を止めて安全点検したい」と言い出せず、破断寸前の状態で3時間以上にわたった運転を続けた。「保守担当者と指令員との間で車両の状況に認識のずれがあり、運行停止に関する判断を相互に依存していた」というのがJR西日本の見方である。

そのため、JR西日本はこのトラブルを契機に、判断基準を明確化するとともに、異音や異臭から安全状態を推測する訓練を乗務員や保守担当者の間で開始した。今回、すれ違った運転士の報告を受けてすぐに列車を止めたのは、台車亀裂から得た教訓が生きたといえる。

しかし、小倉駅ではなぜ列車を止められなかったのだろうか。台車亀裂の教訓は駅員に届いていなかったのだろうか。

台車亀裂問題を検証した有識者会議は、台車亀裂が起きた背景として「福知山線事故以降JR西日本が進めてきた組織改革の取り組みが、いまだ全社的に定着していない」と指摘していた。そして、「今回の事業を単に新幹線で起こった部分的な問題として済ませてしまうのではなく、組織全体にかかわる重大問題として捉え、安全性向上のための改革を加速する大きな契機とすべきである」と締めくくった。だが有識者会議が懸念した事態がまた繰り返された。

品川駅の様子。小倉駅においても、駅員は指差しをしながら安全運行の確認をしていたはずだ(写真:尾形文繁)

発車する列車を見守る駅員が、少し上のほうに目をやっている姿を見たことはないだろうか。「あれは架線の状態をチェックしているのです」と、JR東海の担当者は説明する。異常があれば、すぐに総合指令所に一報を入れる。このように駅員は乗客の安全確認だけでなく、列車の安全運行にもつねに気を配っている。今回、小倉駅の駅員は、列車の異常に気づいていたのか、いなかったのか。

気付いていた可能性が高いように思えるが、もし気づいていた場合、なぜそれを言い出せなかったのか。「運転士が問題なしと判断しているなら問題ないのだろう」と判断してしまったのだろうか。それとも、問題があると思っていても、それを運転士に言い出せない雰囲気があるのか。

15日16時、JR西日本は大阪市内で記者会見を行い、今回の事故について説明を行うが、問題の焦点は「小倉駅」にある。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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