大阪「カジノと万博の島」に鉄道は延びるか IR誘致の候補地「夢洲」へ3つの路線延伸案

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夢洲を含めた大阪湾岸の開発は、失敗の連続だった。

大阪市役所は、1988年の計画で、咲洲(南港北)、舞洲(北港北)、夢洲(北港南)の埋立地3カ所に、先端技術や国際交易、情報通信機能を兼ね備えた昼間人口20万人の新都心を整備する方針を示した。夢洲は居住者6万人、従業人口4.5万人の街になるはずだった。

大阪市は1990年代に、咲洲地区の大規模商業施設や超高層ビル、そして橋や道路などインフラ整備にも多額の資金を注ぎ込んだ。咲洲への鉄道アクセスとなる南港テクノポート線(大阪港―コスモスクエア)は、先述のOTS社が建設と運営を担うことになった。市議会が市交通局の予算で敷設することに反対したためだ。1997年に開業した後、地下鉄中央線と相互直通運転を始めた。

ただ、大阪経済の低迷もあって造成地がほとんど売れず、ビルや施設の入居率は大幅に低下。運営各社は債務超過に陥る。湾岸開発が大失敗することは目に見えていた。

起死回生の五輪誘致も頓挫

夢洲の隣の舞洲埋立地は、2008年大阪オリンピックのメイン会場となる予定だった。ランドマークとなる大阪市環境局舞洲工場(ゴミ焼却場)はウィーンの芸術家による奇抜なデザインで話題となった(筆者撮影)

大阪市役所は賭けに出た。「2008年大阪オリンピック」構想だ。舞洲にメイン会場やサッカー場、プール、夢洲に選手村(開催後は住宅地)、咲洲にアリーナ施設を整備するプランで、招致活動に48億円を注ぎ込んだ。

観客輸送を担う鉄道として提案されたのが、先述の北港テクノポート線(コスモスクエア―夢洲―舞洲―新桜島7.5km)である。OTS社が2000年に運輸省から鉄道事業許可を得る。建設費は1870億円で、利用者数は2008年開業時で1日4.5万人、2023年度で13万人と試算していた。

ただ、大阪五輪に支持は集まらなかった。市民の関心が薄い上に、オリンピック委員会からの評価も低く、2001年の開催地投票では最下位で落選した。

その後、大阪市は、市税収入の大幅な落ち込みで身動きがとれなくなった。2003年以降、関連する第三セクター会社や土地信託事業などの破綻処理に追い込まれる。OTS社も問題視される。新線の利用者数は想定の6割にとどまり、累積赤字87億円、単年度で7億円の営業損失を計上していたからだ。

最終的に交通局が2005年から運営主体となり、OTS社に年間8500万円の線路使用料を支払う救済処置がとられた。市営地下鉄と一元化して都心から咲洲への鉄道運賃を大幅に値下げすることで、利用者増と咲洲開発の進展を期待した。

北港テクノポート線は、夢洲開発の中止で宙に浮いてしまい、2009年に事業休止となる。トンネル工事の現場は封印され、大阪市民すらその存在を忘れていた。

大阪市政の混乱は続く。2003年以降、市長の顔ぶれは4年ごとの選挙で毎回変わった。

大阪維新の会は、2011年の市長と知事のW選挙で勝利した後、市と府を統合する「大阪都構想」の実現を目指した。その目玉となる経済成長戦略として、夢洲でのIRと大阪万博を位置づけた。都構想が2015年の住民投票で頓挫した後も、夢洲開発を継続して検討してきた。

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