二条城が「半世紀ぶりの集客」に成功したワケ これは「生産性向上」のモデルケースだ

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別の目的で足を運んでくれた人にも歴史や文化財に触れる機会を提供し、多面的な体験をしていただくことによって、二条城を広く知ってもらう狙いがここには隠れています。

これは「生産性向上」のモデルケースだ

今回、二条城が実施した改革は画期的です。多くの観光地はPRやブランディング、またはホームページなどを通じた発信には熱心ですが、それだけしかしていないところも少なくありません。特に、整備を怠っていることが多いのです。

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二条城は特にブランディングもしていないし、PRを強化したわけでもありません。やったのは二条城自体を観光客にとってより魅力的にするよう、整備し、磨き上げたカスタマーエクスペリエンスの改善です。二条城という存在に高い価値があるのは当然ですが、今回は別の価値を付加することで、付加価値をさらに高めたのです。

たしかにこのような整備は大変手間がかかります。正直言って、HPなどで情報発信するほうが楽です。しかし、今回ご紹介したように、手間をかけた甲斐あって、二条城では入城者数、収入とも飛躍的な伸びを見せました。大変な経済効果です。

二条城の成功事例は、観光客を増やすために、観光地がやるべき本質的なことは何なのか、その問いに対して答えを提示しているように感じます。

政府は2020年に訪日外国人数を4000万人、同消費額を8兆円にするという目標を掲げています。この数字の前提には、一人当たりの消費額を現在の16万円から20万円に引き上げることが含まれています。

二条城のように各地の観光施設で整備が進み付加価値が上がれば、こういった消費額の増加も不可能ではないでしょう。これこそ生産性の向上で、日本全体が取り組むべきテーマです。

一方、付加価値を高める整備がされなければ、政府が思い描いているように訪日客数が4000万人になったとしても、消費額は8兆円にならない可能性もあります。

以前から、「観光公害」という言葉を耳にすることがあります。交通渋滞やごみ問題もありますが、観光公害の本質は、観光客から十分な対価がもらえないことだと私は感じています。この対価向上を実現するには、やはり5つ星ホテルなどの建設のほか、観光地の付加価値・魅力度アップのための整備や磨き上げが不可欠でしょう。

最後に、今後の日本の観光について考えるにあたって、見逃せないニュースがあるのでお知らせしておきます。

実は、今国会で文化財保護法の改正が成立しました。この改正により、文化財行政を教育委員会から首長部局に移動させる選択肢が生まれました。つまり、「文化は教育」「修学旅行の延長」という古い考え方から、「文化を守るために活用するべき時代」「より自立し持続性のあるものに切り替えるべき」という流れに対応できる環境がようやく整ったのです。

二条城が、先駆者として文化財の正しいあり方の道を示した改革には、感動と感謝の念を禁じえません。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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