「高度プロフェッショナル制度」に隠された罠 年収400万円も狙う「残業代ゼロ法案」の含み

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「年収1000万円プレーヤーの話だから自分には関係ない」と思うビジネスパーソンが大半かもしれない。確かに現時点ではそうかもしれない。たとえば東洋経済オンラインが独自推計した「40歳年収『全国トップ500社』ランキング」(2017年10月26日配信)で見ると、40歳で年収1075万円以上をもらっていると推計される上場企業社員は21社しかない。集計対象である全上場企業約3600社の1%未満だ。今回の高プロ制度で対象になりそうな労働者は多めに見積もっても全体のせいぜい1割に満たないと考えていいだろう。

実は年収要件の具体的な数字は一切書かれていない

一方で、あまり知られていないが、法律の条文上は高プロの年収要件が1075万円などという具体的な数字は一切書かれていない。

少し専門的になるが、法案の条文を引用しよう。

「労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金の額を1年間当たりの賃金の額に換算した額が基準年間平均給与額(厚生労働省において作成する毎月勤労統計における毎月きまつて支給する給与の額を基礎として厚生労働省令で定めるところにより算定した労働者一人当たりの給与の平均額をいう)の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であること」(労基法改正案41条の2第1項2号ロ)

このように、一定の統計に基づいて算出された「基準年間平均給与額」を基準としてその金額の3倍の額を「相当程度上回る水準」「として」、結局は厚生労働省が命令で定める額以上の年収が「見込まれる」労働者が対象となっている。

このような条文の書きぶりから明らかなとおり、そもそもの年収要件の金額は法律では明示されていないだけでなく、「3倍の額」「相当程度上回る水準」など定め方次第ではその金額を上げることを下げることも可能な条文の構造となっている。

そもそもの基準の算出の仕方自体、不明瞭であることはもちろんのこと、今後、法改正実現してしまえば、「3倍」が「2倍」に変更されたり年収要件の金額を引き下げたりすることが容易な構造になっているのだ。

高プロはいわゆる「残業代ゼロ法案」と言えるが、これをめぐる議論は過去10年以上にわたって繰り返されてきた。発端は2005年。日本経団連が表明した「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」にその考えが示された。当時そこにまとめられた残業代ゼロ構想の理想型は、「年収400万円以上で時間の制約が少ない頭脳系職種、つまりホワイトカラー労働者をすべて残業代ゼロにすること」だ。

経団連の意図はこうだ。「総務や経理、人事、企業法務、ファイナンシャルプランナーなどのホワイトカラー労働者の場合は、労働時間の長さと成果が必ずしも比例しないため、工場労働者がモデルとなっている現行の労働時間規制はなじまない。ホワイトカラーの生産性を上げるためには、年収や年齢で対象者範囲を限定せずに、労働時間規制を外すことが望ましい」。

経団連をはじめとする経済界が年収要件の引き下げを意図していることは現時点でも明白である。高プロ導入に賛成している竹中平蔵氏は、同制度の適用対象を拡大すべきとの意見を表明している。

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