上野千鶴子先生、働く女は幸せですか? 日本の女たちを「不良債権」にしたのは誰か

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“異分子”の活躍を、オヤジは許せない

――「新卒一括採用」と「年功序列の評価体系」が、女性たちの家庭と仕事の両立を阻んでいるとは、どういうことですか?

ある経済学者は、女が差別されるのは、女が離職するからだと定義しました。その前提には、離職が不利になる「日本型雇用慣行」があります。

日本の会社は、いったん就職したら、勤続年数が長ければ長いほど地位も収入も上がるシステムだから、途中で辞めるともったいなくて基本は辞めない。同時に、勤続年数が長くなると転職が不利になるから、ますます誰も辞めなくなり、結果として忠誠心が高い社員が育っていく。

つまり、日本企業は、能力主義の変わりに、平均的な人材が平均以上の力を発揮する企業ロイヤリティの高い同質的な集団を作ってきたの。逆を言えば、個人のパフォーマンスを査定評価する人事管理の仕組みは育たなかった。

だから、ワーキングマザーが短時間勤務でも成果を出すと、会社は評価するどころか、内心嫌がるでしょ。オジサンは許さないでしょ。なぜなら、平均的な人材が平均以上の力を発揮する企業文化を乱すからよ。日本のサラリーマンの労働生産性は先進国一と言っていいほど低いのに、それを女たちが言葉ではなく、行動で示すと、オヤジは許せないの。

それと、「日本型雇用慣行」は離職や転退職、再入職が困難だという事態をも引き起こしてしまった。だから女たちは、子どもの成長具合などにより、会社を出たり入ったりができないの。

――しかし、女は意地でも会社を辞めまいと居座ると、「ぶら下がり」だとか「乗っかり組」だなんて言われてしまいます。

それは女のせいではありませんよ。日本の企業のシステムが、既得権益を持てば持つほど有利になるようにできているだけ。男がこれまでさんざん享受してきたうまみを、女も学んで享受しているだけで、何が悪いのよ。

私はね、「男の不良債権」のほうがメンテナンスコストがかかるんだから、女が何人ぶら下がったっていいじゃないかと言っているの(笑)。一度、離職しちゃうと、非正規雇用の口ぐらいしかなくて、ぶら下がることさえできなくなるのだから。

 (撮影:今井 康一)

※ 後編はこちら:女を使えない企業が、世界で戦えますか?

佐藤 留美 ライター
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