上野千鶴子先生、働く女は幸せですか? 日本の女たちを「不良債権」にしたのは誰か

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――もう一方の、残って腐っている人とは?

大企業にとって、もうひとつ番狂わせだったのは、育児支援の福利厚生を整えたら、今までは適当なところで辞めてくれると思っていた一般職やエリア職などの旧一般職の女の子たちが居座り、不良債権化しちゃったことでしょうね。

この20年、急速に不況が進んで、女たちにとって、共働きが「マスト」になったでしょ。しかも、今後は子どもの教育費がますますかかるし、夫の収入が伸び悩むのははっきり見えているから、絶対に辞めないし。

でも、彼女たちを不良債権にしたのは会社の責任ですよ。ワーキングマザーを残業も責任も少ない職場に配置する「配慮」をしてくれちゃったのだから。

「配慮」とは「差別」と裏腹。母親になったアナタをこれからは二流の労働者として扱うよと、いわば「戦力外通知」して、母親労働者というゲットーに囲い込んだ。しかも、こうしたマミーズトラックの塩漬け状態から抜け出すパスは、母親労働者には用意されていない。

誰だって、10年塩漬けにされれば腐るわよ。そして、そのうち塩漬けされた女の間で、「すっぱい葡萄」現象が起きるの。あのイソップ童話に出てきた、いくらジャンプしても葡萄が取れないキツネと同じ。「この葡萄は甘くない。酸っぱいに違いない」と思い込もうとする。

――つまり、会社が、女性管理職などのロールモデルを示しても、「ちっともうらやましくない。管理職になんかなりたくない」と言い出す女性が多いということですね。

私は実際に、そんなケースを見聞きしてきました。この東洋経済の「ワーキングマザー・サバイバル」だって、ある種のロールモデル・シーズ(種)でしょう。

でも、「この人を見習え」と、ワーキングマザーの生きづらさを「個人の問題」に還元するのはよくないわよ。ここに載っている人たちは、「特別な条件に恵まれた人たち」。「私にはまねできないわ」という女性がいて当然。まねができなければ、うらやましくないと思うのが普通でしょう。

だいたい、女たちが快適に育児と仕事の両立ができないのは、個人の問題よりシステムの問題なんだから。

――ワーキングマザーが仕事と育児の両立が難しく、悩んでいるのは、会社のシステムにこそ問題があると。

そう。企業は、男に関しては、終身雇用を前提にした一生涯のキャリアプランに基づく雇用計画を作ってきたわけ。でも、女の「生涯雇用計画」については考えたこともなかったのです。

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