日大は、どこで判断を間違えてしまったのか 大学全体のブランドまで毀損してしまった

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弁護士としての経験の中で感じるのは、「人はなかなか周囲がみえず、通りもしない言い訳をする」という点です。「あなたの言い分はわかりました。私はあなたの味方です。でも、今のあなたの言い分を裁判官が、あるいは本件の関係者は信じてくれるでしょうか?」という問いかけを依頼者にすることは珍しいことではありません。もちろん私が常識にとらわれて、真実の本当の側面に気づいていないこともあるのですが。

そうすると、本件のようにスキャンダルが発生した場合には「突破されないストーリー」を構築し、そこを一貫して守り続けることが戦略上、非常に重要になります。

どこかで聞き覚えのある「秘書がやったことです」「一線はこえていない」「酩酊泥酔状態でした」と言った釈明は、巧拙はいざ知らず、いずれも過去のスキャンダルに対して敷かれたディフェンスラインだった、と言えば分かりやすいでしょうか。

「それって嘘じゃないの?」と言われると、そんな気もします。しかし本件も、秘書がやったかも、一線をこえていないかも、泥酔酩酊状態であったかも、と同様に証拠がない部分はあいまいな状態です。

もちろん、真実こそ尊いというのが私の価値観です。多くの方にとってもそうでしょう。それでも係争時、双方が真実を話してくれることはなかなかありませんし、弁護士をしていると真実が明らかでないまま双方の言い分を聞くことがほとんどです。そうした争いの帰趨についてもわれわれは予想し、検討する必要があります。

「何をしたのか?」「誰に責任があるのか?」

争いのそうした側面について考えるため、いったん善悪の視点から離れ、客観的に本件を観察してみましょう。

本件については、単に一個人の行為が問われているケースとはディフェンスラインの構造を異にします。それは「日大」という組織が大きくかかわっているためです。誰にとってのディフェンスラインなのか、という点については、本稿ではタックルをした選手でもなく、前監督でもなく、部でもなく、「日大」と「選手」にとってのディフェンスラインを主に検討してみます。

具体的には、まず「何をしたのか?」が基本のディフェンスラインです。先にあげた「一線」「泥酔酩酊」はこちらの話でしょう。そして、組織については、「誰に責任があるのか?」というもう一つのディフェンスラインが存在します。先にあげた「秘書」のケースがこれです。

本件は基本的に何をしたのかについて現時点では争いがありません。ビデオというはっきりした証拠が残っており、その評価もほぼ定まっているためです。

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