がんばれ!? 元気の出るベーシックインカム 議論には社会保障の正確な理解が欠かせない

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答えは「該当なし」。生活保護、すなわち次の図における「公的扶助」は3%強にすぎない。しかも、そのうちの半分弱が医療扶助であり、多くの人が「生活保護」という言葉で連想する現金給付の生活扶助は社会保障給付費総額の1%強でしかない。

社会保障給付費の実に9割近くが社会保険から成っている。そして社会保険は、貧困に陥っていない中間層が広範囲に負担と給付の双方にかかわっている制度である。

社会保障の防貧機能と救貧機能

このあたりは、かなり誤解の多いところだが、社会保障の主な役割は、中間層の貧困化を未然に防ぐ「防貧機能」を果たすことにある。社会保障がないときよりも厚い中間層が育ち、この中間層の生活の安泰が、政治面では時々の支配体制を安定させ、経済面では一国の購買力を支えてくれるようになる。数年前に大流行したトマ・ピケティの『21世紀の資本』に「現代の所得再分配は、金持ちから貧乏人への所得移転を行うのではない」とあるのは、そのとおりなのである。

もちろん、社会保障は、貧困に陥った人を事後的に救済する「救貧機能」も果たしている。だが、そうした役割を担う公的扶助は、先に見たように社会保障給付費の3%台であり、社会保障給付費の9割近くは防貧機能を果たす社会保険が占めている。

この社会保険は所得の高い人から低い人への垂直的再分配に加えて、個人の力だけでは備えることに限界がある生活上のリスクに対してみんなで助け合う形としての保険的再分配を行っている。さらには、個人あるいは家計のライフサイクルという時間的な観点で見た場合、若年期の保険料で高齢期の医療費を賄うなど、個々の家計の消費の平準化も果たしている。

現代に生きる私たちは、さまざまな生活リスクを抱えながら暮らしている。病気や失業などのリスクに直面したら、支出が膨張したり収入が途絶したりしてしまう。そうしたときに可能なかぎり従前の生活ができるよう工夫しているのが、防貧機能としての役割を果たす社会保険である。

このような防貧機能の社会保険を、救貧機能の手段として用いられている現金給付で置き換えようというのが、ベーシックインカムなのだろう。ベーシックインカムの要件①を満たした給付に似ているのは、生活保護ということであろうか。ここで「似ている」と表現したのは、①の給付水準条件を視野に入れると、給付額の平均値は、あまり意味を持たなくなるからである。これはどういうことだろうか。​

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