貧困層をより貧しくする日本の歪んだ所得再配分
「日本の相対的貧困率は今やOECD(経済協力開発機構)諸国で最も高い部類に属する」。2006年にOECDが公表した「対日経済審査報告書」は、日本が米国に次ぐ第2位の貧困大国である、という衝撃的な結果を伝えていた。
相対的貧困率とは、税金や社会保障の負担などを差し引いた後に残る可処分所得を分析したもの。国民全体の所得分布から見て、中間に位置する人の半分以下の所得しか得られていない人の割合を示している。
この報告書によれば、日本の相対的貧困率は13・5%。1位・米国の13・7%に肩を並べる水準だ。OECD加盟諸国の平均8・4%はおろか、3位・アイルランドの11・9%をも大幅に上回る。
しかし、「日本は政府も含めて総中流意識が強く、これまで貧困の問題が十分に議論されてこなかった」と、貧困問題に詳しい国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩・国際関係部第2室長は指摘する。「日本は貧困に関する統計も十分に作られておらず、国会答弁も、ワーキングプアがいったい何人いるのかわからない状態で行われている」(阿部氏)のが実情だ。先進国最悪の状況を抱えながらも、日本は長らく貧困の問題から目をそらしてきたのである。
働く人を守らない 日本のセーフティネット
日本が米国と肩を並べる貧困大国になったのは、なぜか。OECDの報告書によれば、非正規労働の増加による労働市場の二極化が主な要因だ。「10年前に全労働者の19%だった非正規労働者の割合は30%以上に増加した。パートタイム労働者の時間当たり賃金は平均してフルタイム労働者の40%にすぎない」。
では欧米諸国は、こうした貧困や格差の問題に対して、どのような処方箋を講じてきたのだろうか。
欧米諸国が導入を進めたものに「ワークフェア」と呼ばれる政策がある。ワークフェアとは、生活保護などの社会保障給付を行う条件として、一定の就労を義務づけるもの。各種の就労支援政策と組み合わせることによって、福祉に頼って生きていた人を経済的に自立させ、貧困から脱出させる政策だ。
しかし、欧米で成果を上げたワークフェアが、そのまま日本の実情に当てはまるかというと、そうではない。ワークフェアが対象とするのは働いていない人だが、日本の貧困層の多くはすでに働いているからだ。
たとえば、貧困率の高い母子家庭。日本政府は、シングルマザーの就労を促進するために、児童扶養手当を5年以上受給してきた母子世帯の手当を最大で5割削減すると決めた(実施は凍結状態)が、母子世帯の母親の85%はすでに働いており、仕事を二つ三つ掛け持ちしているケースも珍しくない。それでも、平均年収は全世帯平均の4割にも満たないのが現実だ(右グラフ)。
しかも、最低生活水準を下回る収入で生活している世帯のうち、実際に生活保護を受けている人の割合を示す「補足率」は、日本では20%以下と、他の先進国を大幅に下回る。所得がゼロでも働く能力があると見なされたり、最低生活費の半月分に相当する資産を持っていれば却下される、といったように、たとえワーキングプアであっても生活保護が受けられないのが日本なのだ。働けど貧しい日本の貧困層に対するセーフティネットが、完全に欠如している。