NEC、「国内2工場閉鎖」で生まれ変われるのか リストラの一方、AI人材の囲い込みに動く

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今回の構造改革について新野社長は「人を減らすことが目的ではなく、われわれのリソースをシフトしていくのが狙い」と説明。これまでも技術者のハードウエアからソフトウエアへのシフトを進めていたが、それをいっそう進めていく考えだ。「職種を変えたくないなどどうしても難しい場合は、特別転身という施策のなかで、支援もしながらやっていく」(新野社長)という。

実際、ソフトウエア分野の技術者不足は深刻な状況。特にデータサイエンティストやAI(人工知能)人材は増やしたいし、奪われたくない領域だ。

こうした状況を象徴する発表が、決算発表の前日にあった。NECが米国で新しく設立したdotData社。NECのAIの中核技術を切り出し、AIを使ったデータ分析プロセスを自動化するサービスを展開する。ベンチャーキャピタルの出資を受けて、将来的にIPO(株式公開)もめざす。CEOには1981年生まれの主席研究員で、機械学習アルゴリズムの専門家である藤巻遼平氏が就いた。

米国に本社置き、AI人材を積極採用

AIの代表的な機能である機械学習をおこなうためにはデータの変換が必要で、ここはデータサイエンティストが担う領域になる。ただ、データサイエンティストはどこの会社からもひっぱりだこ。こうした人材を抱えるのは大企業を中心とした一部の企業に限られる。

会見ではdotData社の設立も発表。真ん中が藤巻遼平CEO、右は森英人エグゼクティブディレクター(記者撮影)

このため、多くの企業でデータの準備段階で作業が止まってしまう状況があるという。そこでこのデータ変換を自動化し、「一部の人だけが分析できる状況を誰でも分析できる状況にする、データサイエンスの民主化」(藤巻氏)の実現を狙う。その中期目標は売上高や利益ではなく、2022年度に企業価値(時価総額)500億円を掲げた。

これは多くのAIベンチャーが売上高のほとんど立たない段階でも人気化し、大きな時価総額を記録したことも影響していそうだ。昨年9月に上場したPKSHA Technology、今年4月に上場したHEROZはともに前期の売上高は10億円未満ながら、時価総額は前者が1745億円、後者が887億円とともに今期予想PER(株価収益率)は400倍を超す人気。特にHEROZの創業者2人はNEC出身だ。

新会社の本社は米国カリフォルニア州クパチーノに置かれ、現地の優秀な人材も採用したい構え。今回のプロジェクトには、日本IBMでワトソン事業を育てた森英人氏もエグゼクティブディレクターとして招き、世界的なサービスに育てようとしている。上場時にはNECの子会社からも離れる見通しもある、思い切った決断だ。新野社長は「こういうことがチャレンジできる会社と国内外に示した」と、その意味を強調した。

NECの人員削減は2001年から実に4度目を数え、打つ手が後手に回っている。そうした状況は採用にも影響する。かつて理系大学生の就職先人気トップを走っていたが、最近は上位にすら顔を出さなくなった。今度こそリストラを断行し、新たな成長路線につなげることができるか。その実行力が問われることになる。

山内 哲夫 東洋経済 記者

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やまうち てつお / Tetsuo Yamauchi

SI、クラウドサービスなどの業界を担当。

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