子どもを産んだことのある「経産牛」は、普通、再度濃厚飼料を与えて、大きくして出荷します。が、田中畜産は、残りの人生をのびのびと過ごしてほしい、と放牧し、食べたい草を食べさせ、半年間自由に過ごさせているのです(山間地のため、冬は雪に埋もれることもあるので、半年ほどしか放牧ができないそうですが)。
実は、経産牛(生産者の間では、“婆(ば)こう”と呼びます)が、おいしいというのはお肉関係者の間では有名な話で、昔は“婆こう”をすき焼きにすると、芳醇な香りが近隣にまで漂いすぐにわかったといいます。
食肉処理後の肉を自ら切って、ネットで販売
田中畜産が、放牧にこだわるのは、和牛、国産牛は、おいしい! 安心安全!と銘打っているのにもかかわらず、牛の身体を作っているのは国産ではなく、輸入の飼料だということに疑問を持ったから。また、もともと牛は、草食動物のため、穀物で無理に太らせるのではなく、自生している草を食べたほうが健康的ではという考えもあって、黒毛和種でありながらも、放牧にこだわっているのです。
田中畜産にはもう1つこだわりがあります。一般的には市場に出した肉は、業者に渡るものですが、田中畜産では大事に育てた肉に最後まで責任を持ちたいと、食肉処理後、持ち帰ってから自分たちで切り分け、ネットで販売しているのです。牛には、それぞれ名前がつけられており、販売されるときには「〇〇のお肉販売開始です!」と消費者に伝えられます。
子牛を産む役割を終えた経産牛の肉ですが、放牧でのびのびと育てられ、生産者の思いもわかると、半日で完売するというから消費者の考えも変わってきているのだと思います。実際、前述のとおり、ここ数年赤身肉を好む人が増えているのは確かです。
霜降り肉重視だったころは、濃厚飼料を多く与えていましたが、最近では牛への負担を考え、牧草などの繊維質の多い粗飼料を与える取り組みも積極的に行われるようになっています。
但馬では、粗飼料で育てた子牛を「すくすく育ち」と命名し、出荷もしています。また、遊休農地や耕作放棄地を利用した和牛の肥育を行う生産者も増えてきました。ブランドや等級、霜降り重視から、どのように育てられ、何を食べた牛なのか、ということにも関心を持って肉を選ぶ時代が来るのもそう遠くなさそうです。
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