小田急「複々線後」の新ダイヤは十分ではない 改正から1カ月、改善すべき点が見えてきた

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席割増料金を無人で確実に収受でき、値段も臨機応変に変えられる(「満員電車がなくなる日」より)

一般車両も、商品価値と生産コストともに異なる着席と立席で値段差を付けることを提案する。それにより、始発列車の有無による不公平を解消でき、着席サービスをいつでもどこでも選べるようになり、増収をもたらす。

さらにサービス改善するうえで、向ヶ丘遊園―新百合ヶ丘の複々線化が切望されているのに対し、3線運行を提案する。道路のリバーシブルレーンのように、朝ピークは上り2線、下り1線、夕ピークは下り2線、上り1線とし、他の時間帯は上下1線ずつで使い、場合によっては残り1線は保守作業ができるようにする。

速度向上できるすばらしい線路

2線を増やす代わりに1線を増やすのみで複々線と同等の輸送力にでき、おそらく複々線の半分以下の事業費にできる。2線で上ってきた列車を郊外へ返すのに、都心貫通型か複々線区間に車両基地があれば問題ない。2016年の交通政策審議会答申に複々線化として記載された中央線の三鷹―立川、田園都市線の溝の口―鷺沼、京王線の笹塚―調布も同様だ。

ほかに、最高速度・曲線通過速度の向上による走行時間の短縮も提案する。複々線区間の乗り心地は抜群であり、走行安全性と乗り心地の面では速度向上の問題はなく、騒音対策をしたうえで沿線の理解を得て進めたい。新宿―小田原59分で特別車両と一般車両を併結したノンストップ列車を朝夕ピーク以外は終日20分おきに運行できたらすばらしい。さらに、新宿から町田20分強、本厚木と大和30分強の列車も10分おきに欲しい。

今回のダイヤ私案の実行には、車両増備、留置場所確保、運転士養成、要員増、乗務員宿泊施設拡張、変電所増強等々を要する。地上設備や車両の保守の手間も増える。着席割増料金による売上げ増がコスト増を上回ることが必須条件である。また、新宿―代々木上原と向ヶ丘遊園以遠は開かずの踏切対策も欠かせない。

今回の提案ダイヤや着席サービスにより収益性を確保することに対しさまざまな意見があるだろうが、複々線の完成が小田急の鉄道事業と沿線の発展に無限の可能性を生み出したことは間違いない。本稿が建設的な議論のきっかけとなることを願っている。

阿部 等 ライトレール社長

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あべ ひとし / Hitoshi Abe

1961年生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院修士課程修了。1988年JR東日本入社。2005年ライトレール創業。交通や鉄道にかかわるコンサルティング・研究開発に従事。著書に『満員電車がなくなる日 改訂版』(戎光祥出版)。

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