「文書改ざん」は社会基盤を脅かす危険行為だ なぜ「アーカイブズ」が大事なのか

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近隣諸国はどうだろうか。中国では公文書を档案(とうあん)と呼ぶが、全国に3600以上もの档案館があり、毎年数百人規模でアーカイブズ(記録資料)の専門家であるアーキビストが養成されているという。韓国では金大中政権の時代に民主化が進み、公文書の扱いを規定する公共記録物管理法が1999年に制定されている。

翻って日本は、歴史的に重要な文書を収蔵する施設の設置を規定する公文書館法ができたのは1987年で、これはOECD加盟国の中でもっとも遅かった。公文書管理法にしても韓国に10年以上後れをとってようやく施行されたというのが現状だ。

実はこの分野についてわかりやすく解説してくれる本は少ない。そんな中、多くを教えられた一冊が『アーカイブズが社会を変える 公文書管理法と情報革命』(松岡資明、平凡社新書)だ。公文書管理法施行のタイミングにあわせて出版された古い本だが、非常に重要なことが書かれている。私見だが、本書が出版されて以降、この問題を体系だって概説した一般向けの良書は出ていない。

このことからも公的な記録の保存に関する社会の関心の低さがうかがえるが、最近出版されたものでは、『公文書問題 日本の「闇」の核心』瀬畑源(集英社新書)がおすすめだ。著者は公文書管理の歴史の研究者で、法律雑誌の連載をもとにしているためにトピックス中心だが、公文書管理法が施行されてから現在までにどんな問題が起きたかを理解するのに役立つ。

検証に使える材料が多いほど、改善策の精度は上がる

なぜアーカイブズの思想が重要かといえば、それは私たちが過ちを犯す動物であるからだ。人間が過ちを犯す動物である以上、社会に無謬性を求めることはできない。大切なことは、間違えたときにそのプロセスを検証できるかどうかである。その際、検証に使える材料が多いほど、改善策の精度があがるのは理の当然だろう。

官僚は優秀だが、官僚ほど無謬性の幻想にとらわれている組織もない。だから間違えたときに、彼らにとって都合の悪い事実を隠そうとする。だがその「間違えた」という事実こそが社会の発展のためには欠くべからざる教材なのだ。事実の記録をないがしろにする社会はやがて衰退していくしかない。

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