「SDGs」に取り組む公立小、学力急上昇の秘訣 詰め込み教育とは無縁、「学び心」を誘発

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今回の受賞も、ESDに基づく学びを実践するための教科横断的な「ESDカレンダー」の作成や、6年間を通して子どもたちがSDGsの全目標を主体的に学んでいることが評価された。八名川小が作成したESDカレンダーは国内や海外でも活用されており、SDGs実践計画表も翻訳され、各国に共有される予定だという。

各教室の入り口にはSDGsの目標が張られている(記者撮影)

それではESDの学びの本質とは何か。その対極にあるのが、「知識を教え込む20世紀型の教育だ」と手島校長は指摘する。「そのような教育は点数主義や序列主義になりがちで、ついていけなくなった子どもたちは学びに楽しさを感じることができず、学校は苦しみの場になってしまう。これは教育に名を借りた虐待にほかならない。登校拒否の多発にもそうしたことが反映している」(手島校長)。

子どもの学びに火をつける

ひるがえって手島校長が取り組むESDでは、「子どもの学びに火をつける」ことを狙いにしている。言い換えれば、子どもが好奇心を持って勉強に取り組み、学びが深まっていく環境作りだ。子どもたちが自ら主体的に学び、調べ、理解し、自分の言葉で語り、問題を解決することが重要で、そのためのお膳立てをするのが教師の役割なのだ。

「そのような子どもたちの輝く姿を教育の1つのゴールととらえよう。そうすれば学校が楽しくなり、学びに価値が感じられるようになり、学力なんて勝手に向上してくるのである」

これは、手島校長が「東京の教育・大改革 あるべき学力を求めて」と題して専門紙に寄稿した提言のくだりだ。

ESDのあるべき姿を求める八名川小の教育実践の結果は、文部科学省の学力・学習状況調査での成果にもつながっている。ESDを導入した後の7年間に、とりわけ活用能力を見るB問題で、国語、算数とも15~18%も成績が向上している。

目先の成績を追い求めることをしてこなかった結果、子どもたちの成績が全体として大きく上がるという結果がもたらされている。ESDの実践を通じて、「教職員の士気は高まり、結束力も強くなった」と手島校長は話す。

手島校長の最大の理解者であり、支援者でもあるのが、金沢学院大学の多田孝志教授だ。13年の長きにわたり、多田教授は手島氏が校長を務める小学校を訪れ、アドバイスをしてきた。

その多田教授が、八名川まつりに訪れた全国の教職員を前に語った。「20世紀型教育では、21世紀の人間教育はできない。持続可能な教育とは、個々を自立させる力と協働を作ること。(有名なコンピュータ科学者が言うように)未来を予測する最善の方法は未来を自ら作ることだ」。

教育の場にESDの風を吹き込みSDGsを根付かせた手島校長は、3月末をもって退職する。手島校長の理念は、次の世代に受け継がれていく。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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