米デフォルト懸念、短期市場の一部が動揺 銀行や企業の資金調達に支障も

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10月4日、米国の連邦債務の法定上限引き上げをめぐる政治対立が、短期金融市場の一部を揺さぶり始めている。写真は5月撮影(2013年 ロイター/Soe Zeya Tun)

[ニューヨーク 4日 ロイター] - 米国の連邦債務の法定上限引き上げをめぐる政治対立が、短期金融市場の一部を揺さぶり始めており、いずれ銀行や企業が融資や投資に必要な資金を調達する上で支障が出てくる恐れもある。

与野党が予算問題で互いに歩み寄らない状態が続き政府機関の一部が閉鎖する事態になったが、議会とホワイトハウスは17日までに債務上限引き上げでも合意できず、史上初のデフォルト(債務不履行)が起きるのではないかとの懸念が増大してきている。

大半のアナリストは、財務省が債務支払い義務を全面的に履行するつもりがないと表明する完全なデフォルトに至る可能性はほとんどないとみている。それは国際金融市場に大惨事をもたらし、米国債やドルの長期的な信用に傷をつけるからだ。

それでも市場の動きには、短期的な支払遅延が生じるかもしれないとの見方が反映されている。

ウェルズ・キャピタル・マネジメントの短期市場責任者、デーブ・シルベスター氏は「市場は支払い遅延の可能性を織り込みつつある」と指摘した。同社は短期市場で1310億ドルの資産を運用している。

具体的には、一部の財務省短期証券(Tビル)の元本や利子の返済が遅れるとの想定で、これらの利回りが上昇した。一方で短期市場の他のセクターではパニックの兆しは見当たらず、レポ取引の翌日物金利はTビル利回りを下回る水準で推移し、ドル建てロンドン銀行間取引金利(LIBOR)3カ月物は9月30日からの週に過去最低を更新した。

実は米国は1979年に定義上ではデフォルトに陥っているが、これは証券発行事務が滞ったためのごく短期間の出来事で、かつ対象の証券も少なかったことから、重大視されなかった。

今回のデフォルト懸念では、10月後半に償還を迎えるTビルに焦点が当てられ、これらのTビル利回りは3日に約1年ぶりの水準に跳ね上がり、10月31日償還のTビルは4日に一時0.19%をつけて流通市場におけるすべてのTビル利回りで最も高くなった。ロイターのデータでは、このTビル(残高890億ドル)利回りは、11月終盤償還のTビルの5倍程度だった。

ただ、レポやフェデラルファンド(FF)の翌日物金利が落ち着きを維持していることは、この2週間以内に債務上限引き上げの合意が成立すると市場がある程度確信している表れだというのが、ウェルズ・キャピタルのシルベスター氏やその他のアナリストの見方だ。

コンタンゴ・キャピタル・アドバイザーズの投資戦略ディレクター、ペリー・ピアッツァ氏は「われわれは依然として、7日からの週あたりに債務上限が引き上げられる展開をかなり確実視している」と述べた。

<MMFの資金繰り悪化がレポ金利に波及>

一方で債務上限が引き上げられなければ、投資家に資金が返済されない。これはマネー・マーケット・ファンド(MMF)が株主からの解約要求に応じるために資金を手当てする必要が生じた場合、他の資産を処分することを意味する。レポやその他の短期金利も押し上げられるだろう。

JPモルガンのアナリストチームは2日付の調査リポートで、そうした事態が起きればレポ市場で相当な資金偏在(必要なところに資金が行き渡らない状態)が発生しそうだとの見方を示した。

JPモルガンによると、総額で2兆7000億ドルに上るMMF業界は、8月末時点でTビルを約4770億ドル保有しており、このうち1000億ドル程度は10月半ばから11月半ばに償還を迎える銘柄だという。

<FRBによる思わぬ形のバックストップ>

議会とホワイトハウスが債務上限引き上げで合意できないと、財務省は新たなTビルの発行ができなくなる。そうなるとMMFやその他の資金運用会社は代わりの資金の置き場所を急いで探さなければならない。

ただアナリストによると、非常にめぐり合わせが良いことに、連邦準備理事会(FRB)が財務省が新規発行できなくなった際のバックストップとして機能する可能性がある。

FRBは9月下旬、財務省証券を買い戻し付き条件で市場参加者に売却するリバースレポの試験を開始。これは実質ゼロ金利を解除する際に金利を目標に誘導することを目的とした措置だが、ディーラーが他の投資会社との日々の取引で財務省証券を担保として必要としているという面でも重要な意味を持つだろう。財務省が新たな起債ができない場合に、たとえ一時的でもFRBの保有する財務省証券が手に入れられるからだ。

キャピタル・アドバイザーズ・グループの投資調査・戦略ディレクター、ランス・パン氏は「万が一の事態が起きてもFRBが財務省証券の供給逼迫を和らげるかもしれない」と語った。

FRBによるリバースレポ試験は、日々の実施金額こそ小さいが、来年1月終盤まで継続される可能性がある。債務上限引き上げのタイミングはなお不明で、もしデフォルトが起きれば短期市場は未知の領域に踏み込む形となるので、リバースレポ試験を続けるのは有益だろう。

(Richard Leong記者)

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