性暴力を軽視する空気の耐えられない「軽さ」 被害者に対して、個人と企業ができること

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――身近な人から相談を受けた時「やってはいけないこと」があれば教えて下さい。

性暴力を告白された時、ついやってしまいがちなのが、性暴力の事実を疑うことや、これ以上誰かに相談することはやめたほうがいい、と言うことです。相手を思うからこそ、「性暴力に遭ったことを信じたくない」「大ごとにしないほうがよい」といった心理が働き、こうした言動が生まれているように感じます。

しかし、性暴力の事実を否定され、相談を受け入れてもらえないことで、被害者は、自分自身を否定されたように感じます。あなたの大切な人が話してくれたことを、事実として受け止めてください。そのことが、被害者にとって大きな力になります。

詳しく知りたい方は、独立行政法人・国立精神・神経医療研究センターが発行している「一人じゃないよ あなたのこれからのための支援情報ハンドブック」を読んでみて下さい。

被害者のためにできること

――性犯罪・性被害やセクハラをなくしたい、被害者のために何かしたい、と考えるビジネスパーソンにアドバイスがあればお願いします。

職場での取り組みについて、3つの提案があります。

1つ目は、セクハラの相談があったら、加害者側への処分を促してほしい、ということです。加害者ではなく被害者を異動させるケースもあるのですが、本来、処罰されるべきは、被害者ではなく加害者のはずです。

2つ目は、セクハラへの取り組みを、「リスクマネジメント」ではなく、「ダイバーシティマネジメント」として企業に位置づけてほしい、ということです。「どこまでがOK、どこからがセクハラか」という発想には、セクハラ被害が訴えられることを「企業のリスク」と捉え、何か問題が起きた時には「会社は適切な指導を行っていた」「この行為はセクハラではない」と主張し、会社を守りたい、という思想が根底にあります。

しかしセクハラの核心は、性の多様性を「性的な圧力」によって支配し、生きる力を奪う点にあります。人材不足が深刻化する中で、「性的人権の尊重」という視点から、社員の育成に取り組んでいかなければ、優秀な人ほど退職してしまうでしょう。

3つ目は、性暴力を告白した人に、(性暴力以外の)本来業務を継続して依頼してほしい、ということです。今回 #Me Too の流れを受け、ブロガーや起業家の方が、ご自身の性暴力の経験を告白しました。

これがきっかけで、彼女たちの仕事が減ることがあれば、それは日本の社会にそれだけ性暴力の加害者的価値観が蔓延している、ということです。性暴力の経験を安全・安心して告白でき、その後も変わらず仕事ができる環境が整備されることが、性暴力を経験した方のこれからの人生を応援することにつながります。

■あなたが個人でできること
・相手の話を事実として受け止める
・性暴力被害の相談を受けたら、ワンストップセンターなどの支援機関を紹介する

■企業ができること
・加害者を処罰する
・セクハラを「リスク」ではなく「ダイバーシティ」の問題と考える
・性暴力の告白をした人に仕事の依頼を続ける

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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