不動産バブル崩壊--官製不況”金融庁悪玉説”は本当か

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融資が正常化したとき市況はヘタっていた

話を金融庁の内情に戻そう。恒例の人事異動を経て役所の事務年度は7月から始まる。金融庁の検査も7月から新年度入り。その際に同庁検査部門が策定するのが「検査基本方針」だ。06年度の「検査基本方針」の中にはこう記されていた。

「不動産ファンド等各種ファンド商品及び仕組債の保有、ノンリコースローンを通じた不動産関連融資やシンジケートローン(中略)が拡大、リスクを十分に認識したうえで、適切なリスク管理体勢を整備しているか検証する」

この基本方針が策定される数カ月前、金融庁は新生信託銀行とJPモルガン信託銀行に対する行政処分を発していた。処分理由は、不動産信託に関連する管理、価格設定などが恣意的だったことが法律に抵触したことにある。確かに、両信託銀行にはずさんさがあり、不動産価格の引き上げを狙った価格操作と受け止められても仕方がなかった。

金融庁はこの点に着目、不動産関連融資のタガが緩んでいるという認識を深めたという事情がある。検査は厳しく、その様子をある大手銀行幹部は「とにかくガンガンやられて、ノンリコースローンの審査基準強化や個別案件の自己査定の厳格化を命じられた」と説明する。07年の同方針も前年と同様、不動産関連が検査重点事項に盛り込まれた。

ところが、つき物が落ちたかのように、今夏以降の検査は穏やかなムードになったというわけだ。

「破綻懸念にした案件資料を提出すると、検査官が『なぜ要管理にとどめなかったのか』と、暗に自己査定の引き上げが妥当とのニュアンスで語りかけてくるほど」--。ある銀行の担当者は検査官たちの豹変ぶりに戸惑った。ちなみに、今年度の検査基本方針の検査重点事項からは「不動産関連」という言葉は消えた。これは金融庁が「不動産関連融資が以前よりも正常化した」という認識に立っていることを示す。

もっとも、融資が正常化したとき、不動産市況はヘタっていた。そこで、金融機関や不動産業界から響き渡っているのが「市況悪化の犯人は金融庁」という恨み節。「検査に行き過ぎがあったのではないか」という批判もちらつく。しかし、それでは当事者である不動産業者や金融機関に自制はあったのか。

不幸な目に遭うと、それを招いた犯人探しを行いがちだ。が、「過剰(なビジネス)は過剰(な抑制)を誘発する」という経済の鉄則を思い返すことも必要だ。

(週刊東洋経済編集部)

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