みずほ銀の反社勢力への融資、海外業務に支障も 国際機関FATFは日本の対策の遅れを指摘

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10月2日、みずほ銀行が、暴力団組員に融資を実行、担当役員がそれを知りながら放置していた問題は、邦銀の資金洗浄対策が遅れている実態を浮き彫りにした。写真は同行のロゴ。1月に都内で撮影(2013年 ロイター/Shohei Miyano)

[東京 2日 ロイター] - みずほフィナンシャルグループ<8411.T>傘下のみずほ銀行が、暴力団組員に融資を実行、担当役員がそれを知りながら放置していた問題は、国際的にマネーロンダリング(資金洗浄)対策が強化される中で、邦銀の意識や取り組みが遅れている実態を浮き彫りにした。

欧米各国は犯罪集団やテロ組織への資金還流に対し、一段と厳しい法的、倫理的な規制を展開している。「ささいなことだとタカをくくっていると、世界の金融取引から締め出される事態にもなりかねない」(資金洗浄対策の専門家)との指摘もあり、反社会的勢力に対する邦銀のリスク管理体制は早急な改善を迫られている。

<FATFからの厳しい視線>

8月下旬、東京・霞が関の中央省庁を欧米のある視察団が訪問した。マネーロンダリングやテロ資金対策の国際協力を進めるために設けられた政府間会合、FATF(金融活動作業部会)のメンバーだ。彼らの海外視察は非公表が原則。今回もマスコミの目に触れることなく、警察庁や財務省、金融庁などの担当部局から日本政府や金融機関の現在の取り組みを詳しくヒアリングして帰途に就いた。

調査の目的は、2003年に出した同部会の勧告が日本においてどこまで実行されているかの検証だった、と政府関係者は言う。

FATFは、国際的な資金洗浄対策の実効性を高めるため、これまで4度の勧告を出し、各国が取り組むべき課題を提示している。しかし、日本は2003年の第3次勧告の水準に達していないとの評価で、フォローアップの対象に位置付けられている。話し合いの具体的な内容は明らかにされていないが、「つつがなく意見交換できた」と同政府関係者は話す。

日本の資金洗浄対策は「世界的には先進国とは言えない水準」(金融関係者)と言われる。FATFは2012年に、これまでで最も厳しい第4次勧告を採択している。「世界ではもう後期の試験が始まっているのに、日本はまだ前期試験の追試を受けている状態」(金融機関幹部)と、酷評する声もある。

FATFの勧告を満たそうと、日本政府は今年4月、銀行口座を開設する時の本人確認を従来よりも厳しくした改正犯罪収益移転防止法を施行。しかし、顧客管理の方法などで「いまだFATFの求める水準に達していない」というのが関係者の見方だ。

<「ヤクザ」に銀行が融資する国>

「日本の銀行が『ヤクザ』に融資していたということか」――。みずほ銀の暴力団向け融資が発覚すると、東京に拠点を持つある外資系銀行の幹部に海外の上司からこう問い合わせが入った。

FATFの勧告では、反社勢力であるマフィアやテロ組織の構成員はもちろん、そうした組織とのつながりが疑われる顧客は「リスクの高い顧客」と位置付け、銀行に対し事実上取引を禁じたり、厳重な注意を求めている。こうした顧客取引に神経質になっている海外金融機関からみると、間接的にせよ暴力団に資金を提供した日本のメガバンクの不祥事はことさらに異様に映ったのだろう、と同外資系銀行幹部は話す。

今回発覚したみずほ銀のケースは提携先の信販会社を経由しての融資だが、信販会社のデータベースには借り手が暴力団関係者として登録されていなかったため、実態を把握できず、最終的に同行との融資契約が成立した。その後、銀行の審査システムで改めてスクリーニングした結果、その顧客が暴力団関係者であることを把握したという。

金融庁によると、こうした反社勢力への融資件数は約230件、総額2億円に上ったが、担当役員がその状況を2年以上も放置したという。同庁は、みずほ銀行がこうした組織との融資取引を防止し、関係解消のための抜本的対策を講じなかったなどとして、業務改善命令を出した。

銀行関係者の間では、信販会社を経由した顧客に対する融資には、常にこうしたリスクがあるという見方が多い。 麻生太郎財務・金融担当相は1日の閣議後会見で、「(みずほ以外の)その他の金融機関も気付かずにそうなって(反社勢力に融資して)いる可能性もなくはない」と指摘した。

大手銀行は自ら構築した審査システムで反社勢力などの「不法属性」を見分けられるが、その仕組みは必ずしも規模の小さな地域金融機関で整っているわけではない。「日本の金融業界全体で、スクリーニングが機能しているかどうかをきちんと検証するべきだ」と、ある大手銀のコンプライアンス担当役員は言う。

<国際金融市場での業務に支障も>

日本の対策達成率は48%─。FATFは2008年に実施した審査で、日本の取り組みに厳しく落第点をつけた。これについては「FATFの勧告は、各国の経済事情を反映していない。しかも、対策を法律に盛り込んでいるかどうかだけを検証しており、実際の取り組みを評価していない」(政府関係者)という批判もある。

しかし、同機関が各国に対して示す勧告は、グローバルな金融取引に参加する上で守るべき対策を示しており、事実上の拘束力を伴っている。評価があまりに低ければ、反社会的勢力に甘い国というブラックリストにも載りかねない。「国際金融市場で、この金融機関とは取引できないという評価をもらうようになると業務に支障が出かねない」と懸念する大手銀行首脳もいる。

(布施 太郎 編集:北松 克朗)

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