日本でバカ売れ「高級チョコレート店」の本音 フランス人職人は日本ではスター扱い

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「日本の輸入業者が私のチョコレートを売ってくれるのはありがたいが、同時にあまりにも高い値段にすることによって私の評判に傷をつけてしまっていることに困惑している。長期的に見ると、開店当初から来てくれているお客さんからおカネをむしり取るようなことに道理があるとは思えない」と、あるフランス人チョコレート職人は打ち明ける。

一方、日本ですでに10年にわたってチョコレートを販売している別の職人はこうした考えを一蹴する。「日本に進出するには、最初にマーケティングやそのほかのものにものすごく高い料金を払わないといけないから仕方ない。価格は3、4年経てば落ち着いてくる。これは当たり前のことだ」。ブイエ氏も、「日本ではチョコレートは1人かせいぜい2人で楽しむもの。子どもがおやつの時間に分け合うようなものではない」と商品の位置づけがフランスなどとは異なると指摘する。

日本の夏はチョコレートには暑すぎる

また、日本の市場の成長性を不安視する声もある。世界各国の500以上の拠点でチョコレートを販売するステファン・ボナ氏は、「日本にはフランスのように市場を活気づかせるイベントがバレンタイン以外にない。フランスでは、結婚式や宗教的な行事、クリスマス、誕生日、パーティなどでチョコレートを楽しむが、日本ではそれがない。しかも、日本の夏はチョコレートを楽しむには暑すぎる」と話す。

本場パリのサロンでは、セミナーやファッションショー、チョコレートのデモンストレーションなどさまざまな催し物が同時に開かれるのに対して、サロン・デュ・ショコラが単なるチョコレートの見本市にとどまっていることに対する不満も職人たちからは聞かれた。

日本市場の将来を楽観していると話すラエール氏(筆者撮影)

こうした中、1月に出店したばかりのラエール氏は、日本の将来を楽観視している。「30年前のフランスがどんなだったか思い出してほしい。チョコレートのシーズンは11月、そしてクリスマス前からイースターまでだった。それが今では、チョコレート専門店が増え、職人たちが絶えず創造的なチョコレートを作り出していることで、フランス人は毎日チョコレートを食べるようになった。チョコレートは生活の一部になったのだ」。

さらに、ラエール氏はこう続ける。「では、日本はどうか。10年前に私の店に来てくれた最初の日本人のお客様たちは、当時20代だった。その方々は今でも私のチョコレートを買ってくれていて、子どもたちにも与えている。つまり、20代よりもっと若い時から、おいしいチョコレートを食べ始めた世代が、将来また自分の子どもにチョコレートを買うようになる。それが続けば、日本のチョコレート愛は一層深まるのではないか」。

ラエール氏は日本で店を開くと発表した際、60通もの履歴書を受け取ったという。「これは、日本人がどれだけ私が作るチョコレートに敬意を表してくれているのかわかる出来事だ。彼らは私たちチョコレート職人を芸術家のように思ってくれている。それが日本のマジックだ」。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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