580億円消失、コインチェックの「問題姿勢」 不正アクセスの裏に透ける成長優先主義

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次に、日本円を含めた通貨がいつ出金できるようになるかだ。これについて、大塚COOの説明は「全体としてどう対応すればお客さんの資産保護になるかを検討している」と歯切れが悪かった。NEMの不正送金を発端に、なぜほかの顧客資産も動かせない状態になっているのか、理由は不明瞭なままだ。大規模な不正送金を受けて、雪崩を打って顧客がコインチェックから逃げ出してしまうことを避けるための措置にも見える。

NEMが取り戻せない場合、補償として日本円で払い戻すのかどうかも「検討中」と繰り返すばかり。払い戻すには現金が必要だが、現在どれだけの手元資金があるのかも、「数字を確認中」として明かすことはなかった。消失した顧客の資産を自前の財務体力でカバーできない場合、経営破綻というシナリオもありうる。和田社長は「事業は継続する方向」としつつも、「(他社からの)救済の議論はしている」とも述べている。

「ビリギャル」から仮想通貨へ

ここまでの騒動を起こしたコインチェックとは、どんな会社なのか。

昨年12月からお笑いタレントの出川哲朗氏を起用して大々的に宣伝を行っていた。写真は六本木ヒルズで展開していたコインチェックの広告(編集部撮影)

「やっぱ知らないんだ」「兄さんが知らないはずないだろ」「じゃあ教えてよ、なんでビットコインはコインチェックがいいんだよ!」。昨年12月上旬からテレビやユーチューブで流れたこの動画広告を見た人も多いだろう。コインチェックは国内の仮想通貨取引所でビットフライヤーと取扱高で首位を争い、大規模な広告宣伝を行っている業界大手の一角だ。

2017年12月の月間取扱高は現物取引(自己資金による取引)ベースで3兆円あり、ビットフライヤーの1.2兆円を上回る。広告宣伝効果で昨年12月の口座開設数は前月比10倍に膨らみ、1月上旬に行った本誌の取材に対し大塚氏は「会員登録数は優に100万人を超えている」と語っている。

コインチェックは2012年8月、現社長の和田氏が東京工業大学在学中に立ち上げた。右腕的存在としてリクルートグループ出身でCOOの大塚氏がおり、26日の会見でも和田氏より大塚氏のほうが発言数が多かった。

大塚氏が執筆した『いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、あまたある仮想通貨本でベストセラーになっている。和田氏は大塚氏より対外的な露出が少なく、開発部門の指揮に専念している。

創業当時はレジュプレスという社名で、個人が自由に物語を書き込めるサイト「STORY.JP」を手掛けていた。その中から映画化もされた作品「ビリギャル」も生まれた(STORY.JPは2017年7月に事業譲渡)。仮想通貨取引所は2014年11月に開業し、2017年3月に現在の社名に変更している。

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