「政府閉鎖」寸前を繰り返す米国のヤバい状態 鳥獣が跋扈する米国の財政リスクを見失うな

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米国の財政赤字は、すでに2016年度からGDP比で上昇に転じている。中長期的には、医療や年金財政の悪化も確実視されている。景気が堅調な時点での財政規律の緩みは、将来に大きな禍根を残しかねない。

まだ「本物のオオカミ」は来ていない

もちろん、まず懸念すべきは、象とロバの諍いが厳しさを増すことである。株式市場などを混乱させる「本物のオオカミ」が、今度こそ、やってくるかもしれないからだ。

米国では、2月末から3月にかけて再び債務上限の引き上げが必要になるとみられている。それまでに共和党と民主党の対立が解けなければ、米国債のデフォルト懸念が市場を騒がせることになる。

「またか」と思うかもしれないが、政府閉鎖の早期解決によって、むしろリスクは高まっている。すでに述べたように、今回の財政協議は共和党の圧勝で終わった。譲歩を引き出せなかった民主党の指導部に対しては、支持者から厳しい批判が巻き起こっている。今後の共和党との協議では、これまで以上に民主党は譲りがたくなる。

正念場が訪れるとすれば、2月末から3月初めにかけてだろう。今回の暫定予算は、2月8日で期限切れとなる。それまでにDACAをめぐる協議が決着しなければ、改めて暫定予算が組まれることになるはずだ。

民主党は、共和党に最大限の圧力をかけるために、再度の暫定予算の期限切れを、債務上限の引き上げが必要となる時期に合わせようとするだろう。さらに言えば、DACAに関してトランプ政権は、議会が存続策で合意できなければ、3月5日までに廃止する方針を明らかにしている。政府閉鎖とデフォルトの回避をかけて、瀬戸際の攻防が展開される可能性がある。

一筋の光明はある。トランプ大統領は、メキシコ国境への壁の建設費用に対する予算措置が取られるのであれば、DACAの対象者のみならず、より多くの若い不法移民に合法的な滞在を認める用意を示し始めた。一方の民主党も、とくに上院議員の間には、今回の政府閉鎖騒動を教訓に、移民問題と財政問題を切り離そうとする機運がある。

 もっとも、オオカミ少年の寓話では、最後にはオオカミがやってくる。今回の政府閉鎖はフェイク(偽物)のオオカミだったが、本物のオオカミは虎視眈々と出番をうかがっている。警戒するに越したことは無い。「まさか」で虚を突かれるよりは、「またか」で済めば安いものだ。

安井 明彦 みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部長

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やすい あきひこ / Akihiko Yasui

1991年富士総合研究所(現みずほ総合研究所)入社、在米日本大使館専門調査員、みずほ総合研究所ニューヨーク事務所長、同政策調査部長等を経て、現職。政策・政治を中心に、一貫してアメリカを担当。著書に『アメリカ 選択肢なき選択』(日本経済新聞出版社)などがある。

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