闘う現場の本当の敵は官僚的な本社の風土だ シンプルに伝えたかったら徹底して考え抜け
全員で問題解決を試みるシステム
野中郁次郎(以下、野中):もともと高知県は山内氏の長い独自の歴史をもつ土佐藩であり、その特殊性から「1つの国」と捉えることもできます。そうであればなおさら、ヘッドクオーター(司令部)を中心に、地域を十把一絡(じっぱひとから)げに捉える大企業の戦略は危険です。田村さんも本社で働き続けていたら、地域のコンテクスト(文脈)は見えてこなかったかもしれません。
田村潤(以下、田村):営業本部は全国の支店のデータをパソコンで眺めているだけです。私たちは、市場をダイナミックなものとして捉え、さらにダイナミズムを自分たちで生み出そうと試みたから、奇跡を起こすことができた。しかし、本社はある1つの時点の傾向を捉えて、そこから類推した戦略を練って指示を下すだけです。お客さまに本気で向き合えば向き合うほど、「敵は官僚的な本社の風土にあり」との思いが強くなりました。
野中:企業経営にはサイエンスとアートを融合させる考え方が求められますが、どちらかというとアートの比重が大きい。いうまでもなく、アートは暗黙知に依拠します。しかし現在はサイエンスばかり教えているから、なかなか新しいコンセプトが生まれないのです。
田村:私もサイエンスで経営を捉えるのは望ましくない、と思います。現場はつねに激しく動いています。気候次第で消費者の嗜好は変わりますし、いつライバル社が新製品を発売するかわからない。膨大な変数のなかで、ある一時のデータだけを捉えて戦略を練っても、変化する消費者の心を掴むことはできません。
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