東芝が懸案の「債務超過」を回避できるワケ メモリ売却完了前になぜ解消できるのか

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結果、2018年3月末の東芝の自己資本はマイナス7500億円+6000億円(増資)+2400億円(税負担軽減)+1700億円(WH関連債権の税引き後売却益)=2600億円へと回復する見込みだ。

東芝はWHスポンサーに名乗りを上げたカナダの投資会社にWH株を1ドルで売却する契約も締結済み。3月末までに規制当局の承認が間に合えば、会計上は前期に計上済みのWH株式減損も税務上の損失として確定できる。さらに約2000億円の税金軽減が得られる。

3月末に承認が間に合わなくても、WH株を売却できれば、来期以降、国内事業で利益を生み出していければその分は税金の軽減が得られる。また、企業会計上は税効果による繰延税金資産という形で一定を利益上乗せとなる可能性がある。

さらに東芝メモリの売却が完了すれば、1兆800億円の売却益が得られる。これは課税済みであるため、ストレートに自己資本を引き上げる。つまり、5000億円以上の債務超過だった東芝は近い将来、1兆3000億円~1兆5000億円の自己資本を持つ財務的には優良会社に生まれ変わるわけだ。

リスクはまだ残っている

もっとも、これでめでたしめでたしとなるかはまだわからない。

綱川智社長。新生東芝の絵をどう描くか(撮影:尾形文繁)

天然ガスの液化施設「フリーポート」の使用契約や米国の原発関連訴訟などリスクはまだ残っている。フリーポートは最大損失1兆円までは出ないにしても、現状で2000億円程度の損失を生むと説明されている。増資を引き受けた投資ファンドが、どういう要求を突きつけてくるかも不安が残る。

普通議決権で40.1%持つ東芝メモリの持分法利益は得られるものの、それ以外のインフラ事業でどう成長を実現していくかはまだ見えてこない。

「12月はボーナスをもらって辞める人が増えたが、退職者も少なくなってきている」(東芝役員)というが、人材流出が止まったわけではない。

東芝メモリ売却前に債務超過を解消できるなら、虎の子の東芝メモリを売らなくてもよかったのではないかーーこうした声が出るだろう。実際、増資を引き受けた投資ファンドの一部からはすでに聞こえてきている。ただ個人的には債権超過になったとはいえ、東芝メモリを売却しなければ脆弱な財務体質で、メモリ産業の巨額投資を継続することは難しいと考える。

いずれにしろ、財務的には危機を乗り越えた東芝が本当に復活できるかはまだわからない。

山田 雄大 東洋経済 コラムニスト

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やまだ たけひろ / Takehiro Yamada

1971年生まれ。1994年、上智大学経済学部卒、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部に在籍したこともあるが、記者生活の大半は業界担当の現場記者。情報通信やインターネット、電機、自動車、鉄鋼業界などを担当。日本証券アナリスト協会検定会員。2006年には同期の山田雄一郎記者との共著『トリックスター 「村上ファンド」4444億円の闇』(東洋経済新報社)を著す。社内に山田姓が多いため「たけひろ」ではなく「ゆうだい」と呼ばれる。

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