東芝が懸案の「債務超過」を回避できるワケ メモリ売却完了前になぜ解消できるのか

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一見すると約6600億円(9000億円-2400億円)の損失を生みそうなこの取り引きが債務超過解消のラストピースになるのは、税負担の軽減につながるからだ。

東芝は、前期(2017年3月期)に約1兆円の最終損失を計上した。この最大の原因となったのは1兆4000億円ものWH関連損失である。

東芝にとって厳しかったのは、企業会計上はWH関連の資産(債権と株式)をほぼゼロまで減価し損失計上となったにもかかわらず、WHの再建計画が認可されるまでこの巨額損失は税務上では損金としては認められないことだった。

WH関連債権の売却で損失を確定

今期(2018年3月期)は、半導体メモリ事業が絶好調で営業利益は過去最高の4300億円を見込んでいる。にもかかわらず、今期の最終損失予想は1100億円の赤字、2018年3月末の債務超過額は7500億円に拡大するとしていた(2017年11月時点の会社予想)。

東芝の経営再建は次のステージに入る(撮影:梅谷秀司)

最終赤字となるのは税負担が重いからだ。売却を前提とした半導体メモリ事業の分割により、見なしの評価益1兆0800億円に対する税金(計算上は3400億円)が発生する。東芝メモリの会計上の売却益は売却完了まで計上できないが、税務上は分割によって利益が認められてしまうのだ。加えて、事業の利益にも税金(同1270億円)がかかる。前述のようにWH関連損失が税務上は認められていないためだ。

本来、こうした企業会計と税務会計の違いを埋める手段として税効果会計がある。しかし、債務超過で将来収益の実現性が不透明な東芝には税効果会計が適用されない。

このままでは債務超過は7500億円に拡大するため、6000億円の増資だけでは2018年3月末までの債務超過解消には足りない。

WH関連債権を外部に売却すれば、再建計画が認可される前でも当該損失を確定できる。そのために親会社保証を清算する必要があった。しかし、増資前の東芝には実行する資金はない。6000億円の増資はこのディールを行うための資金を得るという意味でも重要だった。

増資資金を使って親会社保証を支払い、WHに対する東芝の債権として一本化。そのうえで投資家に売却する。東芝の簿価は事実上ゼロになっているので、売却によって2400億円(税引き後で1700億円)の利益も出せる。

ちなみに投資家が債権を購入するのはWHの再建計画によっては弁済を受けられる可能性があるからだ。2400億円で購入してもペイするとそろばんをはじいたということになる。

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