「日本のお笑い」が世界最強である3つの理由 外国人芸人がその魅力を分析

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先に述べた「日本のお笑いはオワコン」騒動でも、日本のお笑いには政治や社会風刺が足りない、ということが言われました。では、なぜ海外ではその4大テーマに需要があるかというと、手っ取り早くウケるからです。

それらはお客さんが日常的に直面する問題だったり、感情的になれる話題だったりするので、コメディアンがネタにしやすいのです。お客さんは日頃のモヤモヤを代弁してもらってスッキリするし、「それ、分かるわぁ」と笑うことで傷を癒してもらうこともある。

日本人はもっと日本のお笑いを誇るべきだ

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一方、日本のお笑いは、そもそも祝福芸です。「笑う門には福来る」精神があるので、小難しい話や誰かを揶揄することとは、根本的に相いれないのです。となると、4大テーマ以外で笑いを取る日本の芸人は、もっと斬新な発想が必要となります。お決まりじゃない題材で人を笑わせることに徹しているのが、日本のお笑いの真骨頂です。

また、日本のお笑いが爆笑を誘うのには、日本独特の「ツッコミ」が果たす役割も大きいと思います。海外のコメディアンたちは、サラッと面白いことを言ったり、粋な感じでひねくれたことを言ったりしますので、クスッと笑うことはできても、爆笑はできません。

ツッコミは「観客の代弁者」であり「常識人」なので、観客の常識が一致しているという前提が必要です。欧米では人種も価値観も日本より多様なので、ツッコミ不在で観客一人ひとりが心の中でツッコミを入れるような笑いが多くなるわけです。

海外のお笑いでは、人が面白いポイントでリアクションをしたり、ボケを正したり、たとえば眉毛の動きひとつでツッコむことはあるけども、的を射た一言でガッツンと大爆笑をさらうことはありません。その点で、日本のお笑いは優れていると思いますし、そんなツッコミが入るからこそ、ボケがより面白く発展していくのだと思います。

とにかく、圧倒的な数を誇る芸人人口と、多種多様なテイストのお笑いの上に成り立つ一大文化を、日本の皆さんはもっと誇るべきですし、これからの進化にも期待を持っていただいていいと思います。

みんなで、いっぱい笑おう。

チャド・マレーン お笑い芸人

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Chad Mullane

1979年、オーストラリア・パース生まれ。ホームステイで偶然来日した際に日本のお笑いにハマり、ぼんちおさむに師事。加藤貴博とお笑いコンビ「チャド・マレーン」として活動中。また、松本人志が監督した映画作品などの字幕翻訳や芸人の海外公演のサポートなど、日本のお笑い文化を世界に発信すべく奮闘している。

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