ライフネットの「がん保険」が物足りない理由 あのゴールドマン出身者が考案した新商品

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昨年、取締役に就任したがん保険担当の森亮介氏は30代前半。ポスト出口のライフネット生命を牽引する重要な柱の1人だ(撮影:梅谷 秀司)

こうした保険料の設定には、「若者の保険料は安いが中高年はネットなのにさほど安くない」という死亡保険や医療保険でライフネットについたレッテルを払拭したい狙いも見え隠れする。

治療サポート給付金は治療を受けた月に10万円を支給する。回数は無制限で、月内に何度治療を受けても月10万円。治療を一度も受けない月は支給されない。

収入サポート給付金は診断一時金の半額を年1回、最大5回まで受け取れるのだという。たとえば診断一時金が200万円だと毎年100万円を5回、一時金と合計で最大700万円が給付される。

「診断一時金なし」という手もありえた

日本生命を定年退職し60歳でライフネット生命を起業した出口治明氏。ライフネット取締役を今年退任。思ったよりもネット化の波が来ず、ライフネットは爆発的な成長からはほど遠い。立命館大学アジア太平洋大学学長への就任は他薦によるもので、本人も驚きだったという(撮影:梅谷 秀司)

『週刊東洋経済』は1月15日発売号で「保険に騙されるな」を特集。保険をめぐるさまざまな問題を追っている。そこでも詳しく解説しているが、がんの治療が1年以内で終わるのであれば、日本には高額療養費制度がある。一般的な年収の人が抗がん剤を主体として健康保険の適用される通常の治療を受けるのならば、年間治療費はせいぜい50万円程度で済む。つまり1年以内で治療が終わる場合、100万円の診断一時金では半分は使わないことになる。

がんで本当に困るのは、1年以上もだらだらと続く治療の場合だ。たとえば思い切って診断一時金をなくし、治療2年目以降の収入保障のみとし、保険料を一段と下げれば画期的ながん保険になったにちがいない。

長浜バイオ大学の永田宏教授は「『がんと診断されたら100万円』などと明確に書いてないと、(顧客へのアピール度が弱いために)日本では売れない可能性がある」と指摘する。

しかし、創業者の出口氏は創業時に保険に革命を起こすことを目指していた。ライフネットはあえて「診断一時金なし」のがん保険に挑戦する手もあったかもしれない。営業本部長の森氏には、商品改定のタイミングでぜひ「診断一時金なし」のプランを追加し、がん保険に新しい流れを作ってほしいものだ。

週刊東洋経済』1月20日号(1月15日発売)の特集は「保険に騙されるな」です。
山田 雄一郎 東洋経済 記者

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やまだ ゆういちろう / Yuichiro Yamada

1994年慶応大学大学院商学研究科(計量経済学分野)修了、同年入社。1996年から記者。自動車部品・トラック、証券、消費者金融・リース、オフィス家具・建材、地銀、電子制御・電線、パチンコ・パチスロ、重電・総合電機、陸運・海運、石油元売り、化学繊維、通信、SI、造船・重工を担当。『月刊金融ビジネス』『会社四季報』『週刊東洋経済』の各編集部を経験。業界担当とは別にインサイダー事件、日本将棋連盟の不祥事、引越社の不当労働行為、医学部受験不正、検察庁、ゴーンショックを取材・執筆。『週刊東洋経済』編集部では「郵政民営化」「徹底解明ライブドア」「徹底解剖村上ファンド」「シェールガス革命」「サプリメント」「鬱」「認知症」「MBO」「ローランド」「減損の謎、IFRSの不可思議」「日本郵政株上場」「東芝危機」「村上、再び。」「村上強制調査」「ニケシュ電撃辞任」「保険に騙されるな」「保険の罠」の特集を企画・執筆。『トリックスター 村上ファンド4444億円の闇』は同期である山田雄大記者との共著。

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