ロボット化の「痛み」、労働者が感じる苦悩 最先端工場に戸惑う米国の労働者たち
[コロンバス(インディアナ州) 22日 ロイター] - 自動車用排気システムの製造に従事していたサンディ・ビアリングさんは、会社が従来の工場から数キロ先に建設したロボットだらけの新工場に移籍した。彼女はまさに、米国製造業の未来に足を踏み入れたことになる。
だが、彼女は新しい職場がまったく気にくわなかった。
仏自動車部品メーカーのファウレシア<EPED.PA>が米インディアナ州に建設した新工場は、これまで操業していた「グラッドストーン」工場と区別するために「コロンバス・サウス」工場と命名された。
キラキラと輝く清潔な環境で、肉体労働は軽減されている。だが、57歳のビアリングさんにとって、新たな業務は単調な長時間労働に思えた。1日中、コンベヤーに部品を載せてロボットに送り込むだけなのだ。グラッドストーン工場の同僚たちとの交流も懐かしかった。
「1日中ストレスを感じていた」と彼女は言う。
トランプ大統領は、製造業雇用を米国に取り戻すことを経済・通商政策の中心課題として掲げている。だが、実際に雇用が国内に戻ってきても、多くの工場労働者にはそのための備えがなく、企業側は必要なスキルを持った人材を雇うのに苦労している。
米国の製造業求人件数は約15年ぶりの高水準となり、工場では2014年以来最も速いペースで労働者を採用している。だが多くの企業によれば、最も確保が難しいのは、最高水準の給与に見合う専門的スキルを必要とする労働者だという。
労働統計局のデータによれば、2000年の時点で、米国の製造業労働者の半数以上は高卒またはそれ以下の学歴だった。今日では、製造業労働者の57%が、技術系専門学校やカレッジ、大学を卒業しており、学士あるいはそれ以上の学位を持つ労働者も、2000年の22%から30%以上に増大している。
ブルッキングス研究所のマーク・ムーロ上級研究員によれば、経済全体に広がるデジタル化に伴い、企業はさまざまな労働者を探すことを迫られており、専門的スキルを持つ労働者に対しては、より高額の給与を払わざるを得なくなっているという。
ムーロ氏の新たな研究によれば、最高水準のデジタル関連スキルを持つ労働者の賃金は、2010年以降、平均年2%成長しているのに対し、中程度のスキルを有する労働者の賃金は年1.4%、最低水準のスキルの場合は1.6%の伸びになっている。
<スキルのミスマッチ>
スキルのミスマッチは、コロンバスでファウレシアが操業する工場でも現実化している。
従来のグラッドストーン工場では、製造部門で従業員500人を雇用し、ロボットはごく少数だった。新しいコロンバス・サウス工場では、約400人の従業員と約100台のロボットを使っている。そのなかには、人間が操作する運搬車両の代わりに材料を運搬する自動誘導車30台も含まれている。どちらの工場でも、製造しているのは排気システムだ。
ファウレシアは新工場に6400万ドル(約72.5億円)を投じ、グラッドストーン工場で経験を積んだ従業員たちに、新工場での仕事に応募するよう促した。
ビアリングさんを含む多くの従業員にとって、移籍に伴う昇給は魅力だった。ビアリングさんの場合、コロンバス・サウスに移ることで、時給は16ドル65セント(約1900円)から18ドル80セント(約2100円)に上がった。双方の工場の従業員が加盟する労働組合、国際電気工友愛組合(IBEW)によれば、移籍したのは約150人だという。
旧工場を閉鎖する計画はなく、むしろそちらにも段階的に自動化を導入していく予定である。
だが、新工場への移籍の誘いを断った人もいる。
クリスティーナ・テルトウさんは、まったく移籍を考えなかったという。テルトウさんは42歳で、これまでグラッドストーン工場で22年間過ごしてきた。最近昇進したが、かつては「ギャップリーダー」の立場にあった。高卒の従業員が同工場で得られる、悪くないポストの1つである。職務は、従業員のスケジュール管理や部品の品質管理などだった。
コロンバス・サウスで同じポストに就くには、地元の専門学校で経営管理学を16単位履修していること、さらには生産管理・スケジュール管理のためにコンピューターの使い方を学ぶことが必要とされている。
「このグラッドストーン工場では、現場に来て機械を操作すればいい」とテルトウさんは言う。「でも、コロンバス・サウス工場ではまったく違う。何でもロボット任せだ」
もちろん、ロボットは何十年も前から工場で使われている。だがかつてと違うのは、機械がネットワークでお互いに接続され、これまで以上の監視・制御が可能になっていることだ。
コロンバス・サウスでは、管理担当者と技術者が手にしたタブレット端末「iPad(アイパッド)」で製造量をリアルタイムにチェックしながら歩き回り、スキルの低い従業員でも、コンピューターのドロップダウン式メニューを操作してデータを入力するといった基本を知っておく必要がある。
新工場が操業を開始してから、別の問題も明らかになった。
操業開始後まもない時期には、高度に自動化されたシステムに技術的なトラブルが生じる可能性が高いため、新工場の従業員の多くは12時間交代で働いており、週休2日も確保できていない場合が多い。
こうした長時間労働は、ビアリングさんなどの従業員を疲弊させている。「あれだけ稼いだのに、使うヒマがなかった」と彼女は言う。
グラッドストーン工場からの移籍組は、元の職場に再移籍する前に新工場に1年とどまることが義務付けられていた。先月、ビアリングさんは元の職場に戻った。移籍による時給2ドル分の昇給をほぼ諦めたわけだが、彼女は後悔していない。
「わが家に戻ったような気がする」とビアリングさんは語った。
(翻訳:エァクレーレン)
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