「MERY」が過去の栄華を取り戻すための課題 何が変わって何が変わっていないのか?

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しかし、たった2つの違いではあるが、これは大きなコスト増要因である。ペロリが急成長した背景には、女子大生中心の筆者たちが”かわいいを発信したい”と思う気持ちを活かし、可能な限りシンプルに発信させる徹底したローコスト経営だった。

当時、ネット業界ではグローバルで”グロースハック(企業やサービスの成長を加速させるためのテクニック)”という言葉が流行していたが、ペロリ創業者の中川氏はまさにそうしたネット企業の立ち上げ方を上手に実践していたといえる。

同社のホームページに掲載されている「時給1000円〜」という募集条件に対しては、「女子大生のアルバイトとはいえ安すぎる」「こんな薄給ではファッションやコスメに投資できないではないか」という指摘もある。しかし、具体的な執筆本数ノルマなどはなく、出退勤は自由など本数やページ数を基本とした一般的な筆者の報酬とは異なる側面はあるようだ。

江端氏は「ライターとしてのキャリア開始時点の時給設定は、以前のインターンを取っていた頃と変わっていません。しかし、現在のMERYは入社後のライター育成、教育プログラムに力を入れており、経験を積むことで成長していけるようにしました。読者と同じ目線で良質な情報を届けるためには、ライターたちが主体的に”カワイイ情報を発信したい”というモチベーションを保つ必要があり、そうした環境の提供により記事の質が担保されています」と話す。

一定の指導・教育などを行った上で、MERY公認ライターとして登録。以前との違いは、MERY公認ライターは自宅などの遠隔地ではなく、千代田区の神田神保町にあるMERYのオフィス内で記事を執筆するルールになっていること。時給が同等とはいえ、オフィスなどに関わるコストは上昇していると考えるのが妥当だろう。

集められたMERY公認ライターの人数は1月中旬現在で100人程度。「体制を新たにしたMERYでもライターが自分目線でテーマを見つけ、自分が知りたいこと、興味を持っていることについて記事を書き、その記事にマッチする画像を選ぶというスタイルには手を加えていません」(江端氏)。

権利確認については小学館のノウハウを投入

一方で権利確認については小学館のノウハウを取り入れた。社長の山岸氏は「小学館には雑誌制作のノウハウがありますから、紙の雑誌と同じように校閲部門を通し、編集部側で文章、画像ともに内容や権利関係のチェックをして読者に配信していく仕組みとしました」と話す。

文章に関しては一般的な校閲や内容チェックと変わりない。たとえば紹介している商品やサービスが実在しているのか、お店はその場所にちゃんと存在しているのかなどだ。

画像に関してはライターがインスタグラム、ZOZOTOWN、HAIRといったサイトの画像を引用していることが多い。直接権利者に連絡できる場合はいいが、インスタグラムなどでは編集部側でライターが使用を希望する写真を掲載しているアカウントにコメントとして画像を使用したい旨を連絡しているという。先方からの連絡を待つというスタイルだ。

旧体制よりも効率は落ちる。「公開メッセージではなく直接メッセージを送る方がベターだろう」と江端氏も認める。しかし、インスタグラムのサービス仕様上、スパム対策のために同じアカウントからの大量のメッセージが禁じられている。「効率は悪いが、確実に権利者との連絡を取れる手段として現段階は地道に作業を進めていく」と江端氏は話す。

人気インスタグラマーの元には大量のコメントが付くこともあるため、コメント欄での連絡は「決してスムーズではない」と江端氏は話す。それだけ手間暇と時間が掛かるということだ。一方で「画像の無断利用は自分たちが起こしてしまった問題。信頼を獲得するためにも、まずは”やり過ぎ”というぐらいに細かく、しっかりと権利関係をクリアしていきたい」という。

しかし、たとえば10枚の画像が使われているとき、1枚でも権利がクリアできていなければ記事は掲載できないというルールだという。使用する画像の選択は”カワイイ”をテーマにするMERYにとって生命線であり、記事を書くライターの気持ちそのものを反映しているため、代替がきかない。このこともあって、1日の掲載記事数は旧MERYの半分以下となった。

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