「MERY」が過去の栄華を取り戻すための課題 何が変わって何が変わっていないのか?

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「契約ライターとして採用されると、著作権や書き方などについて必要な研修を受けるようになりました。校閲や編集のチェックも入ります。しかし、記事の内容に指示や制約はなく自由に自分が興味を持っていることについて記事を書ける環境が提供されています」

そう話すこの女性社員は、編集者としてテーマ設定や書き口を指導するのではなく、掲載記事のカテゴリバランスの偏りや、記事テーマを探すためのちょっとした気付きを与えることが主な役割だという。

「”これはイケてる。絶対に面白い”という自分の中の確信があって、一番面白いものがここで作れる。上から目線でシーズンに合わせたトレンドを作るのではなく、日常生活の中での喜怒哀楽や友人との楽しい時間などから記事の切り口を見つけて発信していく」(同じ女性社員)

そのやり方をアドバイスすることで、ライターの個性を活かし、校閲と編集を入れた後にもMERYらしさを失わずにいられるのだと説明した。

かつて若い女性たちを虜にしたMERYは、記事制作のプロセスとして、より洗練され、また社会的にも馴染みやすい形で二度目の立ち上げが行われているように見える。

読者の信頼を高めさえすれば…

しかし、コストアップになっているうえ、爆発的なページビューの創出をできているわけではない。こうした中で、以前のように広告主を引きつけることはできるだろうか。

「収益が得られるかどうかの前に、読者の信頼を取り戻すことがもっとも大切。質を高め、読者の信頼を高めさえすれば、結果として広告主からの信頼も得られる。その上で、以前と同じような価値を認めてもらい、ブランドの再認識をしてもらえれば、最終的にビジネスにつなげていけると考えています」(江端氏)

もっとも、旧MERYが読者の心を捉えていた時代と現在では市場環境は変化している。とりわけ、若い女性を対象としたファッション、コスメ情報との接触点は、オーソライズされた雑誌スタイルのメディアからインスタグラムへと変化してきた。MERYはそうしたSNS時代と雑誌時代、両方の発信スタイルをミックスした媒体とも言える。

藤井氏は次のように言う。

「確かにMERYが果たしていた役割を、現在のインスタグラムが取って代わった部分も少なからずあります。しかし、インスタグラムはあくまでも”写真が集まる場”。ハッシュタグやフォローする相手で情報をある程度選別できるとはいえ、情報が整理されているとは言えませんし、知りたい情報へと簡単には辿り着けません。写真をきっかけに”知りたい”と思っても、なかなかそれができない。欲しい商品がどこに売っているのか、もっと詳細な情報はどこにあるのか、あるいはその場所に行きたいけれど住所はどこなのか?など、わからないことが多いのでMERYの出番はあります」

「インスタグラムと似た視点で探すことができ、雑誌のように整理された情報に辿り着くことができる」という位置取りができるかどうか。そこが新生MERYの課題である。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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